【馬・註】ピカチズム（Pikazismus）という言葉
本章に出てくる「ピカチズム」という用語。
本章を読んでも、定義がわかりません。

「ピカチズム」でネット検索しても、出てくるのは、『手帖』がらみの記事ばかり。
『手帖』での文脈によると、一応、「汚物嗜好」という意味らしいが、果たして、本当にそういう意味なのでしょうか？

そこで、Pikazismusを頼りに、いろいろ調べてみましたところ、どうやらそれは、英語のPica (パイカ)ないしPica Syndrome に相当するらしいことがわかりました。
そして、pica の意味を調べると・・・

異食症（いしょくしょう、羅: pica）
栄養価の無いものを無性に食べたくなる症候。
食する対象は土・紙・粘土・毛・氷・木炭・チョークなどが挙げられる。小児と大人の妊婦に多い。
picaとはラテン語でカササギを意味する。カササギは何でも口に入れることから名づけられた。

とのことでした。

そして、氷を食べたくなる異食症を「氷食症　パゴファギア (pagophagia)」、
食べたくなるのが毛髪なら「食毛症　トリコファギア (trichophagia)」
土だったら「土食症　ジオファギア (geophagia)」
糞便なら「汚食症　コプロファギア (coprophagia)」
尿なら「ウロファギア (urophagia)」
と呼ぶのだそうです。

なお、沼の著作にしばしば出てくる
コプロラグニア（英coprolagnia 独Koprolagnie）は
「嗜糞症；糞便し好; 糞便し好症; 排泄物淫乱症; 愛糞」

ウロラグニア （英urolagnia　独Urolagnie）は「嗜尿症」
を指します。

どうも、『手帖』でのピカチズムは、「異食症」という本来の意義を離れ、コプロラグニアやウロラグニアを含む、「汚物嗜好症」の意味として用いられているようです。

そして、ポットや便器のように、器物と化して、汚物を与えられるのを待つ、いわば受動的な形態ではなく、能動的に汚物を味わう形態として、舌を使う方法があるというのが、本章の趣意です。

次に『ヤプー』に登場する、「舐める」シーンを見てみましょう。

【馬・註】「トイレ紙代用品としての舌」と「性具としての舌」

本章で沼は『ロシア踊子の回想』の一部を次のように抜粋・紹介しています

人間トイレ空想に付随し接着するする思想としては、まず「トイレ紙代用品としての舌」がある。
（中略）
ここでは『ロシア踊子の回想』（第六章参照）から、間接記述を引こう。
ヒロインが体僕として使役されていた領主邸に、二人の貴婦人のお客が泊まった――

彼女たちの嫌な嗜好（このみ）にこちらはひどい目にあった。
邸内には舌（の提供者である体僕たち）は選（え） りどりの豊富さなので、彼女たちは毎晩、前庭・後庭それぞれ四つずつの舌（合計十六人！）を要求し、そのおのおのに汗の出るほどの労働を課した……

pisserの後、濡れたところを……それがさらに（別の原因で）湿ってくるまで続けねばならなかった。

そればかりではない。もうひとつの生理的欲求で汚れたあとも……。

二つの舌作業とも私はやらされた。
魂が肉体から離れるかと思うくらいむかついたが、必死に嘔気（はきけ）を押さえた。以前嘔吐したため血の出るまで鞭打たれた仲間を見たことがあったからで、自制して他の連中と一緒に仕事をした。……（第一部五章「イワンとレーナ」）

『ロシア踊子の回想("Die Memorien einer russischen Tanzerin")』の表紙。 日本語訳（左端）第1部第5章は「鞭の柱」との章題。『手帖』に紹介されたくだりは入ていません。 海外の本に入っているかどうかは未確認。

	「貴婦人のお下への奉仕」は、こんな感じかも。

貴婦人への奉仕だから、私たちパジストなら望んでもこの作業に就きたいところだが、ノーマルな者には辛いであろう。
（中略）
体僕らの作業は、単に清拭（せいしき）のみでなく、同時に、別の刺戟具としての役にも立っているのである。
読者諸君には説明するまでもあるまいが、cunnilingusやanilingusである。

私はこれを便宜上Ｃ技巧、Ａ技巧と略すことにしている（なお、男のものに対するpenilingusは普通felatioといわれるからＦ技巧と略す）

Ｃ技巧・Ｆ技巧

『ヤプー』には、Ｃ技巧を仕込まれた雄ヤプーや、Ｆ技巧を仕込まれた雌ヤプーが登場します。
Ｃ技巧：舌人形(クニリンガ)：
第一章　発端　　　　　　第１節　自慰（オナニー）
第二章　円盤艇の中で　　第１節　美女と侏儒　　第２節　読心家具（テレパス）