【馬・註】
本章で沼は『隋煬帝艶史』に登場する王義を紹介。隋の第2代皇帝・煬帝（在位604-18年）に道川から貢物として献上された侏奴（ドゥオーフ）でございます。

沼によると、沼が読んだのは、『隋煬帝艶史』の拙劣な邦訳で、「道川」は「道州」の間違いだろうと言います。
白楽天の『道州民』という詩を引用して

種族的にか遺伝的にか侏儒が多くて年々の進貢品に「侏奴（ドゥオーフ）」を以てしたというのだ。

と述べています。王義は、道州という、身長の低い人が多い地域の出身で、だから本章のタイトルも「矮民」となっています。

侏儒というのは、昔の王侯の宮廷にはつきものであって、洋の東西を問わなかった。馬鹿（フール）がその「精神の不具」によって玩弄の対象となったように、侏儒はその「肉体の畸形」によって、主人に娯楽を提供した。

王義について
彼は眉目濃秀、言語応対花はなはだ敏（さと）く、道川（道州）から貢せられて、帝に寵愛されたが、後宮に入ることだけはどうしても許されなかった。そこで彼は自分で自分を去勢してしまった（自宮）。これによって後宮にも木戸御免の資格を得て、帝のベッドの下で眠るようになった。

当代選りすぐりの美女を集めた帝の後宮に、出入りを許された王義をネタに、沼さんお得意の妄想が全開します。

ある時は、その矮小を利用されて、「任意車」の内部に取り付けられ、帝に御される美女の臀部にあってA技巧によって彼女を刺戟し、お二人の昂奮を、快楽を、倍加せしめる「生きた性具」とされたろう。
ある時は、長夜の荒淫に腎虚した帝にF技巧で奉仕する「男性用性具」となったろう。

しかも王義の身に侵入した私は、男女の語らいに第三者として臨場しての奉仕に喜びを見出さずにいられない。

最後の一文が挿画60-2につながります。

『手帖』のキャプション
二人の愛を見守る者（原題はブージョ筆で、小児は欲情をシンボライズしたものであるが、畸形矮人としても見られる。正常な男女の語らいに第三者として臨場するのが許されるのは、こういう異形劣等な形の者だけなのだ）

Lithographic von Bouchot. Um 1830 (第3巻p 248)

『手帖』のキャプション
不思議な顔（マグリット筆。1945年）乳房と臍とを合わせ取り込んであるので、附記第四の、また私の『家畜人ヤプー』の、顔面女陰妄想そのものではないが、見事な造形と言える。マグリットはこの「顔」を何度もかいていたことが、画集を見ると判る（原題は「強姦」）。

【馬・註】
挿画60-3を沼は「顔面女陰妄想」の見事な造形と表現しています。
「顔面女陰妄想」について、本章で以下のように述べています。

はからずも本章では受動的なcoitus oralisの愛好者としての私の一部を露出したようだ。
いわゆるソドミア一般には私はあまり興味を持たぬが、この形での接触にだけは私はマゾヒストとして相当の興味を持っているのであり、進んでは、顔面に女性局部を形成する手術妄想にまで及ぶことがあるのである。

さらに本章付記 第四（顔面女陰妄想）では

これは、男性に奉仕する女体の代理をつとめようとする際、coitus oralisよりさらに一歩進めるときに空想されるもので、性的妄想としても例の少ないもののようであるが（以下略）
と記しています。

【馬・註】
『ヤプー』第29章は「続編」にあたります。
続編は二代目沼正三こと天野哲夫さんが書いたはずですが、本章によると、初代が書いたようでもあります。
まあ、続編といっても、『ヤプー』角川・限定愛蔵版（1984年）所収の第31章までは初代が書いたかもしれません。
でも、愚仙人にとって、第29章からして読むに耐えない退屈なお話になっています。書いたのは天野さんで、沼さんは入れ知恵しただけなのかも。
真相はナゾです。