『手帖』のキャプション
あ「ほかの犬と並べて訓練していると、女がやって来て……」（附記第二）

【馬・註】
章の趣旨を冒頭・中間・結末からの抜粋により要約しますと・・・

他に何を書いているか知らぬが、たしか木場草介という人の『犬の変奏曲（ヴァリエーション）』という短編が、昭和二三年春ごろの≪読物時事≫という雑誌に載っていた。
特に一章を設けるほどの作品ではないが、Hundemensche　が主人公であり、前章と関係があるので、ここで取り上げておく。

主人公の妻は猫が好きなのである。彼女は猫の高貴性を愛し、犬の野卑を軽蔑する。夫の野卑な物腰は常に彼女に犬を思い出させる。

（中略）

この小説では、妻は猫が好きで、犬が嫌いである。しかも夫はマゾヒストである。これは前章と一見相容れぬように見える。

しかしここで猫好きといっているのは、自分と同じ高貴性を備えたものとして、自分の同類として猫を見るから、親愛感を感ずるというのであって、前章の猫好きとは意味合いが違う。

（中略）

前二章と本章とを合わせて表現すると、次のようにいえるであろう。

即ち、マゾヒストは猫好きであって、猫のような女を猫を愛するように愛するが、自らは犬に親近性を感じて犬となるのを好む。

マゾヒストの理想の妻は犬好きであって、犬のような男を犬を扱うように取り扱う女性であり、精神的には猫の同類で、夫に対しては猫になるのであると。