沼正三_『手帖』_第49章

第2巻：家畜への変身
（第32章～第67章）

第49章　私は犬です

【内容】　犬派Ｍが職業的ドミナに宛てた手紙を論ず
(第44～54章は犬化願望がテーマ)

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		『手帖』のキャプションあ「犬のように扱って下さい……」（カール・アレックス・W・筆）

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『手帖』のキャプション
「職業的ドミナ」（ディネロ筆。一九七〇年）（原文「僕のはどんな娘かな？」）

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『手帖』のキャプション
≪週刊夫婦≫誌から　あまりにアブノーマルな記事なので、作り話でないという証拠を出しておく。これが記事の前半（附記第３参照）。

↓この記事の一部です

【馬・註】

前章は
マゾヒストを自任する人であれば、少なくとも本邦既訳のマゾッホ小説はとうに目を通しておられるであろう
との一文で始まりました。
話を転がすためのアヤとは言え、
「マゾヒストたるもの、翻訳されたマゾッホの作品には全て目を通しておくべき」
というのですから、実践一辺倒のマゾヒストは沼に言わせれば「マゾヒスト失格」ということになりかねませんわな。
まあ、こんなのは、沼さんのイヤミな衒学・教養趣味みたいなものでしょう。

ところが、本章では一転して、専ら「職業的女主人」らとの実践に関する話題でございます。
職業的女主人、今日でいう「女王様」について、次のように記しています。

金さえ払えばそうして（馬註　人間犬として）飼ってくれる職業的女主人、五十年後の日本で、杉本真三氏があれほど苦労して捜し回った（同氏『犬の生態』）理想的娼婦が、ちゃんと存在していたのである。すでに前世紀末葉において

この一文が発表されたのは、1971年に都市出版社から発行された「ある夢想家の手帖から」です。

それから５０年。日本は、沼が羨望した「職業的女主人」を容易にみつけることのできる国となりました。現在のマゾヒストは、よい時代に生まれた僥倖をかみしめるべきでございましょう。

馬仙人の自由研究

杉本眞三『犬の生態』

本文で言及されております杉本眞三の『犬の生態』は、≪奇ク≫１９５８（昭.３３）年１月号に＜マゾヒストの告白＞として発表されました。

冒頭部分には本章で沼が「杉本真三氏があれほど苦労して捜し回った」と表現した当時のマゾヒストの苦難と苦労が記されています。

ある日ついに「私」はヘンタイを受け入れてくれそうな売春宿のマダムに出会い、連れられた売春宿で光枝という２１～２歳の大柄な売春婦をあてがわれます。
「私」は光枝を相手に自身の奇妙な性的嗜好を打明けます。

打ち明け話の後、「私」は念願の足舐めプレイを果たします。
この＜マゾヒストの告白＞の（一）は
「此うして夢にまで描いた天国を、私は生れて始めて、光枝によって体験することができたのでした」
と締められています。

つづく（二）では、一週間ほどして「私」は再びその家を訪れます。
最初の晩は犬プレイだけでしたが、この日は少し様子が違います。

おやおや、『犬の生態』が『馬の生態』に変わりそうななりゆき。
「以下次号へ続く」とのことで、次号に大いに期待したいところですが、実際には次号には続かないで、これでおしまいです。

それにしても、この杉本氏のごときゴリゴリの犬派でさえ、犬一辺倒ではなく馬にも傾きを見せていることからも、往時の馬派の勢いが偲ばれます。
このころは、馬派はまさに本邦マゾヒズムの王道だったんですね。

Die Weiberherrschaft...(「女天下」)には、こんな図版もあります。

Die Weiberherrschaft in der Geschichte der Menschheit（「女天下」)のキャプション

Jagerinnen Gemalde von Stewart (第Ⅱ巻p430)

【おまけ画像】

「第四九章　私は犬です」（潮出版社版）　(←外部サイトへのリンク)

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