【馬・註】
本章題辞
わが項(うなじ)を地面に押しつける
　繊細なおみ足に接吻(キス)を許したまえ
炎の蛇のごとくわれを虐(さいな)む
　強靭な鞭ひもに接吻を許したまえ
___ドロロザ　『受苦の園』

【馬・註】「トーチャーガーデン」について
『手帖』本文には
題辞に引いたドロロザ（ドロル、つまり「苦痛」の意のラテン語から作った女名のペンネーム）からの四行は、『処刑場』（直訳すれば「苦痛の庭園」）（附記第一）と題する長い詩の一節だが・・・

と記され

附記第一には、（ミルボー『刑場』）と題して、次のように書かれています。

このLe Jardin de Supplices という題名は、実は、オクターヴ・ミルボーの同名の小説（英訳Torture Garden）を意識的に襲用したものである。（後略）

Torture Gardenと言えば、英国に発祥し、日本でも何度か開催された、世界的に有名なフェティッシュ・パーティーでございます。
"Torture Gardenn"で検索しても、ヒットするのは、そのイベントがらみばかり。

ところが、"Torture Garden Mirbeau" で検索してみますと、
"Torture Garden"という小説関連のページがズラリと出て参ります。

オクターヴ・ミルボーのこの小説、日本では『責苦の庭』のタイトルで、訳本も出版されているようでございます。

イベントの名前がなんで「トーチャーガーデン」＝「拷問の庭」なのか、じつはよくわからなかったのですが、なるほど、こういう小説のタイトルが下敷きだった（かもしれない）のですね。

『手帖』をじっくり読むと、いろんなことがわかります。

『手帖』のキャプション
「彼は彼女の酒（ワイン）を飲まねばならず、しかも彼女が飲ませようと思うごとに飲まねばなりません」（実写）

【馬・註】
本章で紹介された「マゾヒストの詩」には、以下のくだりがございます。

彼女が彼に自分の足元に来るように合図すると
彼は彼女の（脚の間に湧く）泉を飲まされるのです
従順の徳を身につけさせるために
彼は彼女の（体内に醸された）酒を飲むべきであり
しかも彼女が飲ませようと思うたびに飲まなければなりません

彼女の呉れるものならいつでもご馳走で
たとえ彼女のお尻から出たものでも
彼はそれを美味しいと味わわなければなりません

これについて、沼は次のように述べています
内容はいろいろなことに触れているが、第二二章の「奴隷志願」者の手紙などに比べると、汚物愛好観念が濃厚に表現されているのに、一読して注意させられる。

第一〇章の「奴隷の手紙」にも、飲尿空想があったが、本章では、飲尿のみならず、食糞主題までが韻文化されているのである。

沼は本章本文を、次のように締めくくっています。
この男の経歴に入る前に、飲尿観念からの人間尿器（ポット）空想、食糞観念からの人間便器（トイレ）空想について、それぞれ一章を設けることにしよう。