『手帖』のキャプション
女性(おんな)のからだと男性(おとこ)のこころ　（西ドイツの女性狩猟家(ハントレス)）

『手帖』のキャプション
マゾヒストは女のもつ活?なものに憧れる……（白人女性の柔道修行(おんなヘーシンク)）

【(B)美少年・美青年への奉仕】
しかも彼への女性的奉仕を空想する。そして彼に対してはどのような奉仕の空想も嫌悪をきたさない。

つまり、ここで沼は
「男性と女性が一体化した、ギリシア人のいわゆるHermaphrodit（両性具有）的存在に、女性として奉仕をしたい」
という願望の持主であると告白しているわけです。
『ヤプー』には、雌ヤプーが白人男性に奉仕する場面が登場します。
ウィリアムの唇人形キミコ（第18章　神々の起床　第２節　霊入浴と唇人形キミコ）と
チャールズの愛馬ユキコ（第22章畜人洗礼儀式　第５節　馬形双体と飛行下駄）です。

ウィリアムの唇人形キミコ
は２０世紀の日本にもし連れて行ったとしたら、ミス・ユニヴァース候補にも充分なれたはずの美少女で、学識教養も女子大学あたりの教授もつとまるような、才色兼備の雌ヤプーでしたが、ウィリアムの崇拝者（ファン）である平民女性に買われ、ウィリアムの誕生日に、性具として贈られます。
そして、ウィリアム専用の唇人形（ペニリンガ）になるため、歯を抜かれて総入歯にされて、洗脳されます。今や、彼女が関心を持つのは、ウィリアムの肉体の一部のみであって、彼女はそれを「ご神体」として崇め、それに奉仕することだけが彼女の欲望となっています。

ウィリアムが、入浴の後、大理石の床に横たわり、膝を曲げながら股を開いて、
「キミー！」
と、彼女の愛称を呼ぶと、全裸に首輪を嵌められ、後ろ手に鎖錠された姿で現れ、彼の開いた脚の間にひざまずきます。
黒奴によって入歯が取られると、急に口元がすぼまって、彼女はそのまま上半身を前にかがめ、歯ぐきによる神体へのマッサージを始めます。ご神体が彼女の奉仕によって元気に立ちあがるとき、彼女は生きがいを感じるのです。

『家畜人ヤプー』改訂増補限定版（1970）挿画（部分）。村上芳正・画

チャールズの愛馬ユキコ　（愛称ユッキー）
は、本来は二匹の個体（双子の姉妹）で、受精卵内で一卵性双生児に手術し、人為的に双体を癒着させ、馬形双体（セントーア）として生れさせたものです。

	二体がどのように合体・融合して、ギリシャ神話のケンタウロスのような畜人馬を形成しているか、『奇ク』掲載の左の挿絵をご覧ください。 なお、挿絵では分らないのですが、後半身、馬の胴体にあたる部分では、乳房が隆々と発育し、騎手が拍車を踏んで内側へ蹴込むと、拍車はこの乳房に当る仕組みになっています。 また、挿絵では騎手は女性ですが、物語では主として男子用の乗用畜とされている、という設定になっています。

何百年も続いたセントーアの名門の血統を引いているユッキーだが、主人から可愛がられるのは常に前半身であり、彼女は自由な両手で顔の化粧をすることもできる。一方後半身は主人の体を背に支え、頭を踏台にされ、尻に鞭を、乳房に拍車を受ける損な役回りである（『家畜人ヤプー』　第22章　畜人洗礼儀式　第５節　馬形双体と飛行下駄）

【(C)ドミナのタイプ】
こういうＷ（女性）要素は、一転してドミナに向うとき、彼女への男性付与を要求する。男装した女性は、この意味で私の心にかなうのである。

沼は『手帖』第1章　夢想のドミナでも、「女性美の塊」のようなビーナスよりも、勇ましさや肉体的な強さを具えた女性の方に惹かれると言っています。

『ヤプー』に登場するイース女性の中で、そんな沼の嗜好がよく表れているのが、ドリスです。
ドリスは１８歳。ポーリーン・ジャンセンの妹です。
若くして乗馬の名手とうたわれ、狩猟の腕も姉より上。
スラリとした体つきに、鞭のような強靭なしなやかさを秘めています。

乗馬ズボンに長靴を穿いた、ポロ正選手のいでたちで登場します。

		遠くに大きな鳥の飛ぶのが見えた。その背に美少年がまたがっている…と見る間に、ぐんぐん近寄り拡大してきた。 鳥と思ったのは巨大な鷲の羽を羽ばたかす奇妙な四足獣だった。 少年と思ったのは、打球戯帽（ポロキャップ）からはみ出す豊かな金髪から見て男装の美少女だ、とクララは見てとった。 それが天馬（ペガサス）『アヴァロン号』に騎（の）ったドリスであった。（『家畜人ヤプー』　第３章　驚くべき真相　第１節　自己紹介）
『家畜人ヤプー』改訂増補限定版（1970）挿画（部分）。村上芳正・画

チャールズ・マック（推定１５歳）が美少女とみまがう美少年だったのと裏腹に、１８歳のドリスは美少年と見まがう美少女という設定です。

父親似で顔立ちは少し姉よりいかついが、男女の役目が前史時代とは逆になっている『イース』では、そういういかつさは女の顔にとって少しもマイナスになってはいない。整った顔立ちだった。
まだ熟れ切らぬ処女の肉体の清純さが、若い顔、とくにその汚れを知らぬつぶらな目によく調和していた。（『家畜人ヤプー』　第３章　驚くべき真相　第３節　宇宙帝国『イース』

『手帖』第１章　夢想のドミナ　で沼は、
ヘラ（驕慢な貴婦人）、アテネ（男勝りの女）、アルテミス（若さと処女性を象徴）の三女神こそが、マゾヒストのドミナたるにふさわしいとした上で、マゾッホの小説「女新聞社長」のアンドレアは、三女神それぞれが有する、マゾヒストにとって好ましい資質の全てをあわせもつ、マゾヒストにとって理想のヒロインだと述べています。
それなら、ドリスも、そうした資質の全てを併せ持つ、理想のヒロインかもしれません。