『手帖』のキャプション
「馬上のわれは楽しかりけり……」　
髪なびかせてヴァルキューレを思わせるアン王女
（第一三七章）の乗馬姿は「馬上の令嬢」観念の
最高最美の実現といえよう。

『手帖』のキャプション
春営の騎将紅玉の如し……観兵式に向われる英女王エリザベス二世

【馬・註】春営の騎将紅玉の如し……
沼正三『ある夢想家の手帖から』(『手帖』)によると・・・
季賀の「貴主征行楽」(天子の姫君が征伐に出て楽しむ)には、
　春営ノ騎将、紅玉ノ如シ　　馬ヲ走ラセ鞭ヲハラヒ空緑に上ル
(注。騎将はここでは天子の姫君が軍装して乗馬しているのを指す。空緑は天空。という句がある）
私は英国のエリザベス女王が軍装騎馬して閲兵しておられる写真でこの句を思いだす。
(中略)

まことに明眸晧歯(めいぼうこうし)の男装の貴婦人の騎馬図は、何にもまさって我らマゾヒストの胸の血を湧かせるものがあるのだ

『手帖』のキャプション
「ジャクリーン・オナシス夫人の
六歳当時の乗馬姿
（第七七章附記第二参照）

【馬・註】『手帖』の構成　乗馬女性
本章のテーマ、「女性乗馬」は、
(1)前章で言及したギリシャ神話の女神、アルテミスは、ローマ神話ではディアナ（ダイアナ）である。
(2)「ダイアナ」と言えば、≪奇ク≫(奇譚クラブ)読者は『ダイアナ夫人』を連想するだろう。
(3)『ダイアナ夫人』は、乗杉貴代子女史の、女性乗馬に関する一連の文章である。
…という、かなり無理矢理な三段連想論法から導き出されています。

『手帖』の各章は、それぞれ独立していますが、全くバラバラなのではなく、前章を尻取りみたいに引き取って新しい章を展開する、「連鎖エッセー」になっているんですね。

さて、本章で沼は、
「乗馬女性ダイアナ夫人は、≪奇ク≫読者中に素晴らしい人気を持っている」
として、麻生保氏のダイアナ夫人への賛辞を紹介し、つづいて、
「『乗馬服と長靴と鞭』の森下愛造氏、
『或る被虐性愛者の手記』の天泥盛栄氏から、
『私のヰタ・セクシュアリス』の山本節夫氏、
『女性乗馬考』の馬場喬次氏を経て
『馬化白書』の鞍良人氏、
『アマゾネス考』の佐野寿氏に至るまで、
幾人かのマゾヒストが、乗馬女性へのこの種の偏愛を示してきた。
マゾヒストの類型をそのドミナによって分かつ時、彼らは無視できぬ一つのグループを形成している」
と述べています。

SM雑誌から乗馬女性関連記事の絶えて久しい昨今。隔世の感がございます。