『手帖』のキャプション
高貴なる美貌　ヴィンターハルター筆のオーストリー・ハンガリー皇后エリザベートの絵姿。ヨーロッパで一番美しいプリンセス(愛称シシー)といわれ、また乗馬を愛して、「騎馬皇后」と称されたが、暗殺された。コクトーは『双頭の鷲』の女王のモデルにし、彼女の「驕慢、絶美、激情、勇気、優雅、宿命感」を属性として与えたと書いている。第一三〇章、第一三七章挿入の図版と比較されよ。

『手帖』のキャプション
女の雄武　原題は『勝利の女神』で、一六〇〇年ごろのザーデラー筆銅版画。勝利の女神ニケが戦争の悪魔を打倒し、学問や技芸の女神たちが喜んでいるところであるが、戦争神アレースを負かす尚武の女神パラス・アテネの神話を背景に見てよい。

パリスは結局、
「どんな女性も思いのままにできるようにしてあげよう」
と持ちかけたアフロディテを選びます。

ギリシャ神話では、これが原因となって、「トロイア戦争」が起こったことになっています。

　沼は、この説話をもとに、マゾヒストの惹かれる女性を論じています。

沼によると、
ヘラは「驕慢な貴婦人」を、
アテネは「男勝りの女」を、
アフロディテは「愛嬌のあるグラマー」を、
それぞれ象徴しているのだそうです。

そして、普通の男性ならアフロディテを選ぶが、真のマゾヒストは、アフロディテのような一般的な女性的魅力には惹かれず、驕慢なヘラか、男勝りのアテネを選ぶだろうと、沼は言います。

ヘラ、アテネの他に、若さと処女性を象徴する美少女アルテミスを加えた三女神こそが、マゾヒストのドミナたるにふさわしいのだとか。

その上で、マゾッホの小説「女新聞社長」のアンドレアは、三女神それぞれが有する、マゾヒストにとって好ましい資質の全てをあわせもつ、マゾヒストにとって理想のヒロインだと、沼は述べています。