『手帖』の連載が始った1956年6月号表紙
『ヤプー』の連載が始まった1956年12月号表紙

「奇譚クラブ」で『手帖』の連載が始まったのは１９５３(昭.２８)年。

『家畜人ヤプー』の連載開始は１９５６(昭.３１)年。

それぞれ敗戦（１９４５年）から８年後、１１年後のことでした。

そして、敗戦からサンフランシスコ講和条約が発効する１９５２（昭.２７）年まで、日本は連合国の占領下にありました。

当時の日本人にとって、アメリカは憧れの的でした。

アメリカ人には白人の他、黒人もアジア系も沢山いますが、当時の日本人の多くが憧れたのは、ヨーロッパ系アメリカ人でした。

戦争に敗れ、打ちひしがれていた日本人にとって、アメリカの圧倒的な豊かさはピカピカに輝いて見えました。
「やっぱり、白人には敵わないなあ」
という風に多くの日本人が感じたとしても、不思議ではありません。

『手帖』と『ヤプー』の根幹をなす「白人崇拝」には、こうした「時代の気分」が映し出されていると言えるでしょう。

もう一度、前章末尾から引用すると

最後に、忘れてならぬのは、日本敗戦後の白人国家による占領である。家畜化小説の心理的基礎は右のようであっても、現実にこういう作品が書かれ得た動機には、占領による劣等感の強化確認があったろう。

ということです。

　『ヤプー』では、雄ヤプーが白人女性に使われるように、雌ヤプーが白人男性に奉仕する場面が、しばしば登場します。

　その代表的な例が、ウィリアムの唇人形(ペニリンガ)、キミコでしょう。ミスユニバースの候補になりうるような美少女が、全裸に剥かれて首輪をはめられ、両手は後ろ手にして鎖錠されています。歯は全て抜かれ、普段は総入れ歯。

ウィリアムのペニスを「ご神体」として崇め、それを主人として、それに奉仕することだけが欲望となるまでに洗脳されています。

ウィリアムが欲情すると、総入れ歯を黒奴の手で外され、坐ったウィリアムが開いた股の間に跪き、歯茎によって「ご神体」をマッサージします。

なんだか、男性サディスト向けの話みたいですね。
ところが、これに日本人マゾヒストがＭ的感興を覚える。それは、『手帖』に記された深刻な三者関係のマゾヒズムのゆえにでございましょう。