バラ色の人生

作・たぬべえ

米田修一はバラ色の大学生活を送るはずだった。 それなりに受験勉強もしたのだが、結果は思うようにはならず、それでも合格したＣ商科大学に入学した。 私鉄をいくつも乗り継いだ郊外に大学はあった。 駅前には店もなく、銀杏並木の先にＣ商科大学があるだけの街だった。 キャンパスに一歩足を踏み入れた修一は愕然とした。 そこの景色はまさに灰色だった。 キャンパスにはほとんど女子はいず、くすんだ男たちが朦朧と歩いているだけだった。 授業に出た。 原価10円の物は11円で売れば１円の儲けだ。 そらそうだ。 だが、物を売るには従業員の人件費や店舗の家賃や、広告費や包装紙代も掛かる。 だから12円、13円で売っても利益にはならない。 だが、原価10円の物はなかなか15円では売れない。 さぁ、どうするか。 つづきは次の授業で。って、紙芝居か。 授業に「切れ場」作るなよ。 と思っているうちに、くすんだ男たちの一団は学生食堂へと異動して行った。 修一もくすんだ一団を追ったが、すでに学生食堂は長蛇の列が出来ていた。 その光景はまるで捕虜収容所だ。 この街には他に飯を食う店がないのだ。 こんな列に並ぶくらいなら、飯なんか食わなくてもいい。 これから四年間、女子のほとんどいないキャンパスで、飢えに耐えながら、無味乾燥な授業を受けて過ごさねばならないのかと思うと修一は涙が出て来た。 どんなブスでもいい。女子はいないのか！ 修一が見渡した先に、スカートを履いた物体が動いた気がした。 まさか！　 女子だ！　 修一はスカートが動いたであろう方向を凝視し愕然とした。 確かに女子がいた。 そんなブスというわけでもない、背は低いが、カワイイ系の女子が歩いていた。 だが、彼女のまわりには、くすんだ系の男子が六人も、つき従うようにとりまいて歩いていた。 だ、駄目だ。 彼女と話をするにはあの六人と一緒につき従って歩かなければならないのだ。 つまり話せる内容も１／７で、彼女を自分の恋人に出来る確立も１／７、いや、彼女が学外の男と付き合う可能性もあるから１／７以下で……。 しかし、ここで立ち止まっていたらバラ色のキャンパスライフは逃げて行くぞ。 そう思うと、修一はいても立ってもいられず、女子と六人の男子のあとを追った。 「佐伯さんは次はなんの授業に出るの」 男子の一人が聞いた。 おっ、彼女は佐伯さんというんだ。修一は一つ情報をゲットした。 「次は福祉概論」 佐伯さんが答えた。 福祉概論は福祉ビジネス科の必修授業だが、他の学科でも受講資格のある授業だ。 よし、俺も福祉概論を履修しよう、修一は思った。 「僕も福祉概論、履修しようかな」 「僕も」 「僕も」 「俺も」 「私も」 「ミーも」 六人も同じことを考えたようだ。 結局、七人の男子は、それぞれの学科の必修科目と重ならない福祉ビジネス科の授業を佐伯さんと一緒に履修することとなった。 佐伯さんと七人には不思議な連帯感が生まれた。七人の男子はある種の紳士協定を結んだかに見えた。 そして、八ヶ月が過ぎ、秋風が吹くある日のことだった。 児童教育論の准教授に、佐伯さんと修一、それに七人組の高田弘二が呼ばれた。 児童教育論を履修しているのは、六人組では修一と高田の二人だけだった。 「君たち、仲いいね。そこで頼みがあるんだ。クリスマスにさ、君たち三人で、僕の知っている養護施設に慰問に行ってくれないか。よろしく頼むよ」 准教授は返事も聞かずに説明して話をすすめてしまった。 修一と高田にはラッキーだった。 このままだと、また八人でクリスマスを過ごすことになる。 それが三人でのクリスマスになった。 養護施設の慰問は夕方までで、それからは三人だけで飲み会となれば、それまでの １／７の確率が一気に１／２の確立になる！ 五人は一緒に行きたいと言ったが、修一と高田は授業を建前に五人の参加を拒んだ。 しかも修一と高田にはさらなるラッキーがもたらされた。 養護施設の慰問は、三人がサンタになってプレゼントを配るというモノらしい。 そこで佐伯さんはミニスカサンタの衣装を着ることになったのだ。 修一と高田は手を取り合って喜んだ。 そして、12月24日となった。 養護施設に行くと、係の人が、 「では衣装に着替えてくださいね」 と言い、佐伯さんを別室に連れて行った。 「あっ、君たちは更衣室用意してないけど、事務所で着替えて」 「俺たちもサンタ着るんですか？」 「サンタが三人もいてもしょうがないだろう。君たちはトナカイだ」 えーっ！！トナカイですか。 そこにはトナカイの着ぐるみが二着置いてあった。 修一と高田はトナカイの着ぐるみを着た。 「じゃ、二人、ジャンケンして」 係の人に言われるまま、二人はジャンケンした。 修一が負けた。 「じゃ、負けた君は四つ這いになって。ソリがないんだ。 だから君が馬になって、サンタさんを乗せて子供たちのところへ行って欲しい」 そうこう言っているうちに、ミニスカサンタに着替えた佐伯さんが出て来た。 修一は四つ這いになった。 「ごめんね、修一君」 「うん。大丈夫だよ。佐伯さん、軽いし」 修一の背中に跨ったミニスカサンタは確かに軽かった。 「君は袋を持って後から付いて行ってね」 トナカイの着ぐるみを着て袋を持つ高田はあきらかに不愉快そうな顔をしていた。 「えっ、私は何を持つんですか」 修一に跨った佐伯さんの手には乗馬鞭が渡された。 「走れ、トナカイ！ハイホーッ！って叫んで、これでトナカイのお尻をピシャリ」 どこまでマニアックなんだ、この係の人は？ 「子供たちは楽しみにしているからね」 「わかりました。走れ、トナカイ！ハイホーッ！」 ピシリッ。 佐伯さんは軽かったが、鞭はかなり痛かった。 痛かったけど。修一にとって、今までの灰色の８ヶ月間は嘘のようで、バラ色のいまが広がっていた。 歳が明け、修一は七人組からの追放を命じられた。 今後一切、恵子には近付くな。一人だけいい想いをしたむくいだ。 修一は仲間たちの意思を受け入れた。 四月になり修一も二年になったが、Ｃ大学の灰色の風景は変わらなかった。 そんなある日、一本の電話があった。 「養護施設の川上だけど」 電話の相手は、修一にトナカイの着ぐるみを着せた、あの養護施設の係員からだった。 「君に折り入って頼みがあるんだ。 うちの娘の家庭教師になって欲しい」 川上の娘は今年中学三年になる。急にＭ女子大の付属高校に行きたいと言いだした。 成績優秀なお嬢様学校で今の成績だと厳しいので、家庭教師をつけたいと言うのだ。 「俺、Ｃ商科大学ですよ」 Ｃ商科大学は決して偏差値の高い大学ではない。 他の大学の受験に失敗し、浪人するのは嫌だからと入る奴ばかりの大学である。 修一もその口だった。 「でも、大学生だろう。中学生の勉強くらい見られるだろう」 確かに。 修一が志望していた大学はかなりのレベルのところで、修一はそれなりに受験勉強はしていた。 試験に落ちたのは運が悪かっただけだ。 大学の受験生だって教えることは出来る自負はあった。 川上の家はＣ大学から私鉄で二駅のところにあった。 無味乾燥な大学生活を送っている今、バイトはおおいなる息抜きにもなる。 Ｃ商科大学だと足元を見て、川上は家庭教師代を値切って来たが、金の問題ではない。漠然と大学に通うのが嫌だった。 修一は家庭教師を引き受けた。 「うん。君はどこか見どころのある奴だと思ったよ」 川上は言った。 川上の家へ行き、娘の沙耶と会った。 修一のこれからの生活が薔薇色に輝いた。 沙耶はいわゆる美少女だった。 長い髪の毛を左右で結んで、まるで魔法アニメのヒロインみたいだった。 「よろしくお願いします、センセイ」 カワイイ。 このカワイイ女の子に、これから一年間 「センセイ」 と呼ばれるのか。 そう思っただけで、修一の股間に熱いものが走った。 しかし、世の中はそんなに甘くはなかった。 沙耶の教科書を見て、修一は唖然とした。 わからん。難しい。マジか。 英語と数学を教えることになっていたが、英語なんてまるで意味がわからん。 数学にいたってはチンプンカンプンだった。 だが、ここで、わからないなどと言ったら、この美少女にバカにされる。 さげすまされて、あざけり笑われる。 それはそれで楽しいかもしれないが、家庭教師は間違いなくクビになる。 そしたら、またあの無味乾燥な大学生活に逆戻りだ。 修一は受験勉強の頃の三倍は勉強した。 沙耶の家庭教師だけは、何が何でも辞めたくなかった。 最初は怪しい時も何度かはあったが、一月を過ぎた頃には、沙耶の教科書に書いてあることをほとんど理解し、なんでも教えられるようになった。 俺はやれば出来るじゃないか。 修一は自信を持った。 と言っても、大学生が中学生の教科書を理解しただけなのだが。 一学期が終わったテストの結果は、沙耶の成績も上がったが、修一の成績も上がっていた。 夏休み、それまでは週一だった授業を週に二にし、勉強に励んだ。 親もあきらかな成果を出したので、少しばかりは金を出すことにしたのだろう。 その日は４０度近い暑さの日だった。 「今日はパパもママも出掛けているの」 「そうなんだ」 外は猛暑の中、その日は二人きりだった。 あまりにも暑かったためか、沙耶の部屋のクーラーは効き目が悪かった。 「パパやママがいないんだから、リビングで勉強しようか」 修一が言った。 「リビングは集中出来ないから嫌。暑かったら服を脱げばいいのよ」 沙耶が凄いことを言った。 凄いことなのか、自然の摂理じゃないか。 クーラーなんかに頼っちゃ駄目だ。 暑ければ服を脱げばいい！ 沙耶はいつの間にか、ブラジャーとパンティだけになっていた。 「センセイも脱ぎなさいよ」 「センセイはいいよ」 「駄目。見てると暑苦しい」 「わかった」 修一はパンツ一丁になった。 いかん！ 「やだ、センセイ、沙耶の下着姿見て勃っちゃったの？」 「すまん」 修一は謝った。 「駄目。許さない。センセイ、罰としてお馬になりなさい」 えっ！　 修一が四つ這いになると、下着姿の沙耶が背中に座った。 嬉しいんだけど。いいのかなぁ。 クーラーの効きは相変わらず悪い。 修一は汗まみれになって、四つ這いで部屋の中を這い回った。 「きゃははは、お馬楽しいねえ」。 沙耶の笑い声が響いた。 それにしても、この父娘って。沙耶のお馬さん好きは父親譲りなんだろうか。 修一はパンツ一丁で汗だくになって狭い部屋を這いまわった。背中には下着姿の沙耶を乗せて。 沙耶は軽いけど、クーラーのあまり効いていない部屋で、もう30分以上、お馬さんごっこを続けていた。 足を止めると、 「ほら、走れ」 と沙耶はお尻をピシャリと叩く。 叩かれて修一はまた走り出す。 「先生、ご褒美あげようか」 沙耶が修一の体を締め付けるように足をからませる。 そして足先を股間に伸ばし、修一のペニスを軽く突っつく。 修一はパンツの中でもう二度射精していた。 「あっ、２時だ」 沙耶が言った。 ２時？　 「ママが帰って来るよ」 言うと沙耶は修一の背中から飛び降りると、部屋を出て行った。 沙耶もぐっしょりと汗をかいていた。 シャワーを浴びる音が聞こえた。 修一もシャワーを浴びたかった。 しかし、 「ママが帰って来る」 という沙耶の言葉に怯えた。 とりあえずティッシュで股間を拭き、修一もあわてて服を着た。 そして、芳香剤を思いつきり噴射した。 修一は家庭教師を続けた。 あの暑い日は夢だったのかと思うほど、以後の沙耶は真面目に勉強し、修一を挑発するようなことは何も言わなかった。 夏が終わり秋になった。 キャンパスを歩いていた修一に、思わぬ人物が声を掛けて来た。 佐伯恵子だった。 「どうして、最近、私のところに来ないのよ。私のこと嫌いになった？　それとも新しい彼女でも出来たの？」 修一はクリスマスのお馬さんごっこの件で七人組をはずされたことを手短に語った。 「バッカじゃないの」 恵子は怒った。 「そういうのを決めるのは私よ。あいつらに、そんなことを決める権利なんてあるわけないじゃないの！」 見ると、いつもいるはずの六人がいない。 「そんなことじゃないかと思って、あの六人には、二度と私のまわりに近寄らないように言ったの。七人組は解散よ。 あなたもあなた。あいつらに言われたくらいで、私の許可なく、私の傍を離れるなんて」。 意外な恵子の言葉に修一は驚いた。 「私、あなたのことが好きよ。あのクリスマスの日に感じたの。修一君とまたお馬さんごっこがしたいなぁ」 「えーッ！ 修一は七人組を離れたことを後悔した。 まさか恵子が自分のことを好きだなんて思ってもいなかった。 それに、 「またお馬さんごっこがしたい」。 その言葉で修一のスボンの中はとんでもないことになっていた。 「ごめん。僕、佐伯さんの気持ちも知らないで……」 「そうよ。たっぷりお仕置きしてあげる。 で、そのあとは私と付き合ってね」 そう言って恵子は修一の腕にからみついて来た。 「先生、この間、綺麗な女の人と歩いていたでしょう。沙耶見ちゃった」 どうやら、恵子とのデートを沙耶に見られたらしい。 「なんだ声掛けてくれればいいのに」。 修一が言うと、沙耶は物差しで修一のお尻を叩いた。 「何よ。沙耶の下着姿見てオチンチン大きくしてたくせに。生意気よ！」 「ごめん」 修一は謝った。それを言われると謝るしかなかった。 「駄目。土下座しなさい」 「ごめんなさい」。 修一は言われるまま土下座した。 大学生が中３の女の子に土下座、かなりカッコ悪いが、中３の女の子の下着姿に興奮して、お馬さんごっこして射精したのはつい１月前のことだった。 「でもしょうがないか。先生も20歳だもんね。彼女の一人くらいいたって。 ねえ、彼女紹介してよ。私、先生の彼女と友達になりたいなぁ」 なんかヤバイことになりそうな予感はした。 しかし、沙耶には弱味を握られている。もしもお馬さんごっこの件を親に言われたら。家庭教師をクビになるだけじゃ済まない。 結局、修一と恵子と沙耶、三人で会ってファストフードで昼食を食べた。 恵子と沙耶は女同士でファッションのことなど話がはずんでいた。 「ねえ、沙耶ちゃんとお洋服見てから帰るから。修一は先に帰っていいよ。女の買い物に付き合いたくないでしょう」 「先生、彼女お借りしますね」 なんかうまくいったみたいだ、と修一は思った。 秋が終わり冬になった。 恵子のマンションでクリスマスパーティを三人でやろうと言われた。 修一ははじめて恵子のマンションを訪ねた。 大学の近くのワンルームマンションだ。 修一が部屋に入ると、すでに恵子と沙耶がいて、やたらと暖房が効いていた。 「なんか暑いね」 「だったら脱いだら」。 当然そういう展開になるんだ。 修一はパンツ一丁になった。 「パンツも脱ぎなさいよ」。 えっ！パンツも！ 「私たちも暑いから脱ぐね」。 そう言って、恵子も沙耶も裸になった。 ブラジャーもはずした。 えーッ。自分だけ裸で、お馬さんごっこかと思ったら。恵子と、沙耶のオッパイまで拝めるなんて……。 恵子と沙耶は下も脱いだ。 スカートを脱いだら、そこには。 二人の股間には模造ペニスが装着されていた。 な、何、それ……。 それはパンツを脱いだ修一のペニスよりもあきらかに大きかった。 「これで今日は修一を思い切り楽しませてあげるね。修一は私の彼だものね」 「先生、私たちすっかり意気投合したのよ。気持ちよくしてあげるね。先生は私の奴隷よ」 修一にとって地獄とも天国ともつかない夜がはじまった。

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