『女性上位時代』クライマックスシーンの分析


シーン（1）宴会場（食堂）隣接のソファーセット周辺

直前のシーンでは、強烈に結婚を迫るデ･マルキに、ミミが言います。 〔なお、台詞は主に英語版("The Libertine")に準拠しました〕 「でも、私には、まだ貴方の知らない秘密があるの。 あのね、私ってば、マジ、ちょうヘンタイなの・・・・」 開けて、この最終シークエンス。 最初の「宴会場隣接ソファーセット」のシーンは、４つのショットで構成されています。 【ショット１】 冒頭、食べ残されたウェディング・ケーキがアップで映し出されます。 ミミとデ・マルキが無事に結婚式を挙げたことと、いま二人は、結婚式直後の、客が去った宴会場にいることを、この「食べ残されたウェディングケーキ」は象徴的に語っているわけです。 カメラはケーキから左に振られ、テーブルの傍にいるネグリジェ姿のミミを写しだします。 ミミは、ネグリジェを脱ぎ捨てて、丸いソファーに腰掛けます。 「ねえ、貴方、ホントにいいの？」 と聞くミミ。 「いやいや、全然気にしてないよ」 とデ・マルキの声がして、 カメラが左に振られると、そこには、何故か床に四つん這いになったデ･マルキの姿が。 【ショット２】 ソファーに脚を組んで腰掛けたミミ 「でも、驚いたでしょ？」 【ショット１】 被乗待機姿勢をとる デ･マルキ（ジャン＝ルイ・トランティニャン） 【ショット２】 スラリとした脚を組んでソファーに腰掛けた ミミ（カトリーヌ･スパーク）。 ここは、デ･マルキになったつもりで、 まもなく始まろうとする　“この絶佳の肢体を 背に支える、恍惚のひと時”　への期待に 胸弾ませつつ見るのが、馬派としての 正しい鑑賞法だ。と思う 【ショット３】 四つん這いの姿勢から起き上がり、正座したデ･マルキ。 フロイトの説など持ち出して、 「欲望をムリに我慢しなくていいんだよ」 と講釈を垂れます。 【ショット４】 カメラは、ソファーから勢いよく立ち上がるミミを追います。 ２〜３歩歩いて、デ･マルキの傍に来たミミ。 デ･マルキの肩を押して四つん這いにさせると、やおらその背を跨いで・・・ さあ、いよいよ「お馬さんごっこ」の始まり。 この映画を初めて見る人も、ここで、デ･マルキに求婚されたときにミミが言った、「貴方がまだ知らない秘密」とは何かが分かります。つまり、彼女は、 「男を馬にして跨ると、なぜか最高にHな気分になっちゃう」 っていうヘンタイさんだった、というわけですね。 お馬さんごっこの美しさやセクシーさという点では、このショットこそ最高と言えましょう。 お馬さんごっこのスタートから、部屋を出るまで、滑らかなカメラワークによる、切れ間なしのワンショット撮影です。 その一連の動きの中で、ミミは 　　デ・マルキを無言で押し倒し、 　　デ・マルキの背を跨ぎ、 　　デ・マルキの背中に腰を下ろし、 　　デ・マルキの腿を踝（くるぶし）でポンポンッと蹴り、 　　馬になったデ・マルキにハイシ、ハイシの号令をかけます。 そして、このひとつひとつの所作が、馬派Mには堪えられないM的感興を引き起こすのであります。 　スリムでキュートな佳人が 四つん這いにさせた男の背を跨ぐ 男の背に腰を下ろし、踝でポンと蹴る “ハイシ！ハイシ！” ほ　う こ　う て　　ん か　ん 男馬に跨り、昂然と見下ろす女騎手。 この場面の描写は、全編の中でも秀逸 やがて、部屋を出て・・・ 渡り廊下へ ミミ「ああ、最高の気分よ。なんて気持ちいいんだろう」 カメラはさらにつづけて、部屋を出て渡り廊下を行く二人の後姿を追います。 このシーン（１）【ショット４】は、全部で２３秒あります。 �@ミミがソファーから立ち上がり、　�Aデ･マルキの傍まで歩き、　�Bデ･マルキに跨り、　�C“ハイシ！ハイシ！”の号令をかけて部屋を這わせ、　�D部屋を出、　�E渡り廊下をしばらく行くところまで、 一連の動きを、カメラは全くグラつくことなく、安定して追っています。 カメラは手持ちではなく、三脚に据えられ、台車に乗せられていたに違いありません。 そして、このうち、ミミがデ・マルキの背に腰を下ろしてから、部屋を出るまでは６秒間。 この６秒間の描写は非常にセクシーです。馬派Mにとって至福の６秒間と言えましょう。