いずれにしても、実際に馬代わりに使役される身にとっては、「愛の馬」とか「お馬さんごっこ」なんて脳天気なものではなく、屈辱的な苦役以外の何物でもありませんでした。
   人間を馬代わりに使うような、人権蹂躪の奴隷制度や、奴隷制に類似した制度は、廃止されて当然です。また、そのような制度や、異民族・異人種による支配の結果、今も差別や偏見、不平等に苦しんでいる人たちがいることは、極めて不当な、悲しむべきことです。
　しかし、そういう現実をわきまえ、不当な差別や偏見、不平等を憎むことと、「奴隷制社会や異民族・異人種に支配される社会で、支配階級の美しい令嬢や奥様に馬代わりに使役される」という妄想（fantasy)に耽ることとは、必ずしも両立しないものではないでしょう。クラブやプライベートで「女主人と奴隷の遊び」を楽しんでいる人たちが、現実の奴隷制度に賛成していることにはならないのと同じように。

　肩馬に跨がると、本物の馬に騎乗したのと同じく、目の位置が高くなります。視界がぐっと開け、周囲を見下ろすことができるので、四つん這い型とはまた違った意味で支配の快感を味わうことができるでしょう。
　何よりも、屋外での騎乗を気軽に楽しめるのが、肩馬の大きな利点です。戯れに男性が女性を肩車するのは、公園などで見ても不自然ではない、微笑ましい光景です。その二人が実は「女主人様と奴隷」の関係だなんて、世間の皆様には想像もできないでしょう。近頃は日本の男性も随分体格が良くなりました。体育会系の大柄な奴隷クンをお持ちのＳ女様は、試してみてはいかがでしょう。

　肩馬も、四つん這いのお馬さんと同じく、必ずしも特別の道具を必要としません。でも、馬の肩に鞍を乗せ、胸に鐙を垂らすと、騎手の乗り心地や安定度がぐっと増しますし、拍車をかけて馬を励ますこともできます。馬派Ｍにとって、本物の馬と同じように、女騎手様の拍車を脇腹に受けて走らされるのは、肩馬ならではの醍醐味です。

　空想の世界では、妄想の天才・沼正三が、本物の馬以上に実用的な「二本足の馬」を考案し、小説『家畜人ヤプー』で描いています。

もっとも、実際には、適当な補助車を作るのが難しいことや、このような姿勢で、女騎手様の乗り心地を損ねないよう背筋を伸ばしたまま走りつづけるのは困難であるといった問題があります。欧米のponyboy やhuman-horse の写真でも、このタイプの人間馬は見たことがありません。