Ｓ女子大秘話

作・たぬべえ

５

外に出て、大丈夫かなぁ、と思った。 あんな責めが続いて、俊之は死んじゃうんじゃないか。 まぁ、でも、俊之も大人だから。なんかあれば逃げるだろう。 時計を見たら、もう終電はなかった。 他の皆はどうしたろう。 高田と益江、谷原と浪江がカップルになったみたいだけれど。 してみるとカップル率3割、かなり高い合コンだったかも。 どうしよう。 タクシーで帰るか、一人で飲むか。 歩いて駅まで来たら。 げっ、会いたくない奴がいた。 合コンで暴虐無人にふるまった牛尾茂がいた。 怒って途中で帰って、どっかで一人で飲んでいたようだ。 「おや、Ｓ女子大の女王様」 牛尾が近づいて来た。 やばい。 終電も行ってしまい、まわりに人もまばらだ。 牛尾は怒っている。 暴力をふるわれるかもしれない。 「くだらねえ合コンやって。 男を土下座させて、何が楽しいんだよ」 牛尾は言った。 逃げよう。逃げなきゃ、ヤバい。玲子は思った。 「待てよ、女王様」 牛尾は追って来た。 とにかく人のいるところへ。玲子はコンビニに飛び込んだ。 牛尾はコンビニにまでは追って来ない。 外に出たら、捕まる。どうしよう。 「どうかしましたか」 声を掛けて来た男がいた。 男は温和そうな初老の男性だった。 「いえ、あの、その……」 玲子がなんて言っていいのか迷っていると、牛尾が怖い顔で入って来た。 玲子のほうに向かって来る牛尾。 その時、初老の男が玲子の耳元でささやいた。 「まぁ、私に任せなさい」 牛尾は玲子の手首をつかんだ。 「ここで話をすると、あんたのほうが恥をかくよ。 別の場所で話をしようぜ」 ここで話をすると恥をかく。 ＳＭまがいの合コン話をがなり立てるのか。 どうしよう。 「君、手を離しなさい」 初老の男が言った。 「引っ込んでろ、爺！」 牛尾が凄んだ。 「引っ込むわけにはいかないね」 「なんだと！」 「私はこの娘の父親だ」 いきなり初老の男が父親と言ったので、牛尾は一瞬ひるんだ。 だが、すぐに嘘を見破ったのか。 「おいおい、ならよ、あんたは娘にどういう教育をしてきたんだよ！」 牛尾は凄んだ。 「君の親こそ、息子にどういう教育をしたんだ。 とにかく手を離せ！」 男が怒鳴った。 わずかにいたコンビニの客たちの視線が集まった。 「覚えていろ」 捨て台詞を小声で言い、牛尾はコンビニを出て行った。 「大丈夫ですか」 店員が出て来た。 「警察呼びますか」 「いや、警察を呼ぶほどではないでしょうが、タクシーを呼んでいただけますか」 男は言った。 「あの様子だと、どっかで待ち伏せしているでしょう。 警察を呼んでもいいんだけれど、君の知り合いのようだから、あとで面倒になっても困る。とりあえずタクシーを呼んで。安全な場所に移動しましょう」 タクシーは５分で来た。 玲子がタクシーに乗るまで、初老の男はついていてくれた。 少し離れたところで牛尾はじっと見ていた。

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