なりゆき

作・たぬべえ

６

次の日、会社へ行く１時間前の朝の７時に、雄一郎は響子に部屋に来るよう言われた。 とりあえず貞操帯ははずされた。 「じゃまず、服を脱いで。 全裸よ。 パンツも脱いでね」 「なんなんだ、朝から？」 「だから、調教よ」 「朝から鞭で叩かれるのか」 「言うことをきかなければ、お仕置きもアリよ」 「わかった。 いや、わかりました」 雄一郎は言い直し、服を脱いだ。 チンコを手で隠して、響子の前に跪いた。 奴隷は決して、主人より目線が上になってはいけない。 「じゃ、これつけて」 雄一郎の前にエプロンが渡された。 「今日からとりあえずエプロン奴隷をやってもらいます」 響子が言った。 エプロン奴隷とは、女主人の家の家事をやらされる奴隷のことだ。 毎朝、７時に来て、全裸にエプロンだけの姿になって、キッチンとトイレの掃除をして、簡単な朝食を作るように言われた。 「待ってくれ……、待ってください。 掃除と食事の支度はいいが、裸エプロンは」 裸エプロンなんて、新婚の若妻がやるからいいんであって、31歳のおっさんがやって面白いのか。 「何も裸エプロンになる必要はないんじゃないか」 「雄ちゃんの羞恥心を棄てさせるための調教だから」 響子は言った。 いやもう、この程度の羞恥心なんてもうとっくに棄てちゃったよ。 雄一郎は思った。 でも改めて全裸にエプロンをつけたら恥ずかしかった。 そして、ほんの少し勃起した。 それを見て響子はクスッと笑った。 そうして朝の１時間は雄一郎は毎日、響子の部屋でエプロン奴隷をすることになった。 雄一郎は８時には響子の部屋を出て会社に行かねばならない。 だから、ちょっとあわただしい１時間だった。 それでも効率よく掃除をこなし、食事を作ったあと、なんとか10分時間を残し、響子がその日履いてゆくハイヒールの靴磨きまでこなせるようになった。 ハイヒール磨きは雄一郎に与えられたわずかなご褒美なのかもしれない。 土日は10時でいいと言われた。 10時に行くと、その日の家事、洗濯や風呂掃除を命じられる。 響子は12時頃に出掛けてしまい、あとはひたすら、夕方まで家事をし、一人で帰る。 俺は何をやってるんだ。 家政婦として雇われただけか、と思わぬこともなくはないが、きっと何か次の展開があるはずだ。 そう思って雄一郎はせっせとエプロン奴隷に励んだ。 時々思うのは、もしあの時、響子の模造ペニスをしゃぶりながら自分のペニスを勃起させていたらどうなっていたんだろうということだ。 今頃は、マゾな恋人として、まだ貞操帯で射精管理されながらも響子といろいろエロいことの出来る関係になっていのだろうか。 それとも本格マゾ奴隷にでも堕ちていたか。 調教と言いながらも、ＳＭっぽいことはとくになかった。 土下座や敬語を強要されることはない。 ただ、雄一郎は響子と話をする時は自然と跪くし、言葉は言われなくても敬語になっていった。 でもお互いの呼び方は「雄ちゃん」「響子さん」だった。 それを変えなかったのは、雄一郎の中で、ふたたび響子と恋人の関係になれるかもしれないという淡い期待があったのかもしれない。

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