なりゆき

作・たぬべえ

４

結局、雄一郎と響子は、カルビ500円のチェーン店焼肉屋に行った。 流石に焼肉屋では普通の会話だった。 響子は大学生活を話し、雄一郎は会社の話をした。 帰り際、一言だけ響子が言った。 「男と女が二人で焼肉来るなんて、恋人同士みたいね」 これは絶対にまた罠だ。 雄一郎は何度も自問した。 一方で罠でもいいじゃないか。 という声も心のどこかで聞こえた。 響子と一回でもセックス出来たら、一生を棒にふってもいい。 いや、もし罠でなかったらどうするよ。 響子と普通に付き合って……、きっかけはパンティ泥棒、そして、全裸で鞭で叩かれて射精した。 一生頭が上がらないぞ。 だが、その後、雄一郎は響子と、いわゆる普通のデート、美術館や映画に行ったりした。 いいのか？ だが、隣に住んでいながら、なかなかセックスはさせてもらえない。 いつも部屋の前で「さよなら」だった。 「そんなに甘くはないのだ。 私のことを考えてオナニーして」 響子はそう言って、雄一郎を拒んだ。 だが、ある日、とうとう響子のほうから切り出した。 「ホントに付き合ってもいいけれど、条件がある」 響子は元カレに浮気をされた過去がある。 だから、雄一郎に浮気されるのが嫌だと言う。 「俺がモテるわけないだろう」 「男はわからない。 それにあの時、あなたは私だけでなく、玲子のピンヒールでオチンチン踏まれながらも射精したでしょう」 「それは……」 「私の条件は一つ」 そう言って、響子はテーブルの上に、男性用貞操帯を置いた。 貞操帯は十字軍遠征のおり、夫が留守中の妻に貞操を守らせるため装着させたものである。しかし、そんなのは夫が十里も先に旅立ってしまえば、鍵屋を呼べば済むだけの話で、有名無実のものであった。 異教徒との戦さが終わっても、貞操帯が着用されたのは、女性が自らの貞淑さをアピールするためだと言われている。 男性にしてみれば、貞操帯を着けた女をモノにした、という自慢話にもなるという、なんとも馬鹿馬鹿しい社交界の中の不思議なファッションの一つとなったわけだが、近年では男性の貞操帯もまま見られるようになった。 男性とても女性への貞操や忠誠を、身をもって示そうじゃないか。 と言う理由でこのようなものを着けるようになったという。 また十字軍の頃よりは鍵の技術も進み、今では並みの鍵屋では開けることの出来ない鍵もあり、ホントの意味での貞操を守る道具としての貞操帯も出て来ているそうだ。 「これを付けろというの？」 雄一郎は恐る恐る聞いた。 「やっぱ駄目だよね」 響子はちょっと寂しそうにつぶやいた。 「駄目じゃないけど」 雄一郎が言うと、響子は目を輝かせた。 その顔を見たら、雄一郎はもうNOとは言えなくなっていた。 所詮俺はパンティ泥棒の変態で、女たちに鞭で打たれてピンヒールで踏まれて射精したマゾ男だ。 いまさら貞操帯くらいで何を驚くことがあるんだ。 そんな変態の俺でも、男として付き合ってくれると言う響子の頼みを、なんで断われるんだ。 「これをつけたら、俺を男として扱ってくれますか」 雄一郎は響子の目を見て言った。 「どういうこと？　 今でも雄一郎さんは男じゃない？」 「いや、その……」 雄一郎は勇気を出して言った。 「俺はいつも不安なんだ。 響子さんの前ではいろんな醜態を晒して。 むしろ、響子さんが別の男を好きになって、俺は変態のマゾ男だから棄てられるんじゃないかって」 「そんなことないよ。 私は雄一郎さんのことが好きよ。 ちょっと変態なところも含めてね」 ガチャッ。 雄一郎は納得し、ペニスに貞操帯を付けた。 一週間の禁欲は流石に辛かった。 デートの間も気もそぞろだった。 デートが終わり帰宅すると、いつものように響子は自室に帰ろうとした。 「待ってくれよ。 貞操帯をはずしてくれ」 「どうして？」 「出したいんだ。頼むよ」 「ふーん。 それが頼むっていう態度なの？」 「えっ？」 「頼むんなら、土下座くらいしたら」 罠にはまった。 雄一郎が思った時は遅かった。 そんなことを考える暇もなく、雄一郎はマンションの廊下に土下座していた。 「じゃ、雄君の部屋に行こうか」 雄一郎の部屋に行き、貞操帯をはずした。 「こんなに大きくなっている」 響子は雄一郎のペニスを見て笑い、ちょっと先っぽを触った。 「うわーっ」 怒号とともに雄一郎は射精した。 「はい。おしまい。 セックスはもう少し我慢出来るようになったらね」 そう言うと響子は、ガチャリ。ふたたび雄一郎に貞操帯をつけた。

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