なりゆき

作・たぬべえ

１

出来心だった。 31歳独身の浅香雄一郎が誘惑に負けたことを誰が責められようか。 雄一郎のマンションの隣室にＳ女子大生の南響子が引っ越して来た。 はじめて見掛けた時、カワイイと思った。 雄一郎が代休をとった日のこと。 たまった洗濯をし、ベランダで干していた時だ。 隣のベランダで、ひらりひらりと風に舞う一枚の布切れのようなものが見えた。 あ、あれは！　まさしく、隣室のベランダに干してある女子大生のパンティではないか。それが伸ばせば手が届くところにあった。 気が付くと雄一郎は手をのばしてパンティを掴んでいた。 部屋に駆け込む。 そして、思いっきりパンティの匂いを嗅いでしまった。 勿論、洗濯して干してあるパンティからは石鹸の匂いしかしないのだが、さっきまで女子大生が穿いていたパンティだと思うと異様に興奮した。 股間の勃起は収まらなかった。 そのまま三回連続でオナニーをし、その日はそのまま寝てしまった。 翌日、雄一郎の頭の中は自責の念でいっぱいになっていた。 雄一郎のやったことは泥棒であり、痴漢であり、変態である。 マンションは６階だ。 外から盗みに来るのはまず不可能だ。 パンティがなくなったことに女子大生が気付けば、まっさきに疑われるのは雄一郎だ。 もう警察に届けを出したかもしれない。 そうなれば今日にでも刑事が調べに来て逮捕……。 変態として新聞にも載り、俺の人生は終わる。 雄一郎はいまさらに自分のしたことの重大性に気付き狼狽した。 だが待てよ、普通、隣の住民が盗んだなどと思うだろうか。 風で飛ばされたと思うのが普通じゃないか。 いや、わからない。 隣家は中年の男だ。 まず疑うのが常識、いや、そんなことは……。 その日一日、雄一郎は会社でも仕事が手につかなかった。 幸い警察が調べに来ることはなかった。 今日来なかったからといって、明日も来ないとは限らない。 恐怖に震えながら、その日を終えて家に戻る。 どうしよう。 彼女のパンティを手に考えているうちに、自然と勃起してしまうから、男はだらしがないものだ。 その日も三回オナニーをして寝た。 雄一郎が出した結論。 このまま怯えて暮らすのはたくさんだ。 女子大生に謝る。 真摯に謝れば許してもらえないこともない。 警察に突き出されても、初犯だから、刑務所に行くことはあるまい。 このまま怯えて暮らすことを考えたら、すべてを白黒させたほうがいい。 銀座で並ばないと買えない人気のケーキを買い、その日の午後、雄一郎は隣室を訪ねた。 「隣の浅香です」 「はい。何か？」 女子大生は部屋にいた。 「申し訳ございません。 実は……。出来心です。 すみません。 僕はあなたのベランダに干してあったパンティを盗みました」 雄一郎は玄関先に土下座をして謝った。 女子大生はキョトンとしていたが、やがて。 「あなただったの」 と言った。 雄一郎は 「すみませんでした」を連呼し、ひたすら謝りつづけた。 「まぁ、土下座なんかしなくていいですよ。 警察にも言ってません。 出来心だったんですよね。 二度としませんよね」 「はい」 「なら、許してあげますよ」 案外、話は早かった。 すべての女性がこんなに寛容であるわけはないのだろうが。 「あっ、洗って返すなんて言わないでくださいよ。 何したかくらいは、私も大人ですから、わかります」。 この一言には、雄一郎は顔から火が噴出しそうになり、 「申し訳ございません」と平伏した。 「新しいのを買って返します」 「あー、いいですよ。 ケーキももらったし。 そうね。 じゃ、一回食事奢ってくれます？」 どういう幸運な展開なんだ。 あのカワイイ女子大生と食事に行くことになるなんて。 雄一郎は小踊りした。 やはり正直に謝ったのが効果があった。 このまま、もしかしたら彼女と付き合うことになるかもしれない。 もし結婚とかしたら。 二人の馴れ初めはパンティ泥棒……、 一生尻の下に敷かれそうだが、あの女子大生の尻の下になら敷かれてもいいと雄一郎は思った。 そして、いろんなことを妄想し、その日はパンティで五回オナニーをして寝た。

２⇒

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