いじめっ娘

作・たぬべえ

６

さらに一年が経った。 要一は転職した。 要一は高校教師を辞め、三島卓に誘われて、塾の経営者になった。 頭のいい卓に、要一は学校で女子生徒にいじめられていることを感付かれた。 「ははは。それは羨ましい」 卓は言ったが、 「好きで奴隷になっているんじゃないよ。 弱味を握られて仕方なしにだ。 バレたら、人生終わっちゃうよ」 要一は悩んでいた。 「じゃ、教師なんて辞めちゃえば」 「簡単に言うなよ。 この年齢で、他に潰しも効かない」 「そうだ。 うちの会社に和田さんって人がいるんです。 この人は、人生相談の達人で」 「知らない人にマゾバレは」 「奴隷の話は内緒で。 ただ転職の相談をしてみたら」 「その人は何者だ」 「うちの会社のヒラ社員ですよ」 「ヒラ社員？　駄目人間じゃないか」 「それがそうじゃない。 騙されたと思って、相談してみたら」 要一は卓と二人で、この居酒屋で和田に会った。 「三島君、相談ということは、今日の勘定は君たちの奢りか？」 和田は言った。 「もちろんですよ」 要一は怪訝な顔をした。 「山田さんといいましたね。 あなただって、無料で他人からアドバイスを受けるのは心苦しいでしょう。 僕は素人、弁護士でも医者でも、心学者でもない。 ただあなたたちよりもちょっと年上というだけだ。 だから、お金をもらうわけにはゆかないけれど、ここの勘定、奢ってもらうくらいが、お互いに気兼ねなくていいでしょう」 そう言って和田は笑った。 「ねっ、山田さん、ものがわかっている人だと思いませんか」 「はぁ、よろしくお願いします」 「私からのアドバイスはひとつ。 人間万事塞翁馬、ですよ」 「はぁ」 「いいことばかりでもないし、悪いことばかりでもない」 「諺を聞きたくて、わざわざ来たわけじゃない」 要一は少し腹を立てた。 「ねえ、山田さん、あんたと私は今日初対面、あんたのこともよく知らない。 私のアドバイスよりも、あんたのことをよく知っている友達の三島君が、転職したほうがいいってアドバイスしてくれたんでしょう。 私のアドバイスよりも、三島君のアドバイスを聞いたらどうですか」 そう言って和田は笑った。 「和田さんの言うこと、わかるよ」 帰り道、要一が言った。 「並んでオナニーした奴なんて、三島君しかいないからな」 「ですよ。 僕も困ったことがあったら、いの一番に山田さんに相談します。 実は」 「実は？」 「僕、麻衣子さんと結婚しようかと思っているんです」 「麻衣子さんと？　10歳くらい年上だろう」 「ええ。でも、彼女しか、いないかなって」 イケメンでエリートの卓が、確かに理想のＳ女かもしれないが、10歳年上の麻衣子と結婚って。 いや、そうじゃないな。 条件なんて関係ないんだ。 「ただ、問題があるんですよ」 「年齢以外に？」 「彼女がOKって言わないんです」 「なんで？」 「なんかいいプロポーズの方法ないっすか。 土下座なんて、いつもしているから、何も効果ないっす」 「普通に、高級レストランで飯食って、レインボーブリッヂの見えるところで、指輪渡せばいいんじゃないか」 「あはははは。その手があった」 「おいおいおい」 「山田さんは、なんで先生になったんですか」 「そら、食いっぱぐれがないから、かな」 「嘘でしょう。 女子高生に囲まれたかったから？」 「なら女子高の教師になる」 「落ちこぼれの子に勉強教えたかったんじゃないですか」 「えっ？」 「違うかもしれないけれど、なんかそんな気がしたんですよ」 卓がさわやかな笑顔で言った。 マゾっぽくねえなぁ。 三島の親は事業をやっていた。 事業は兄が継いでいたのだが、三島は親に塾経営の事業を提案した。 「勉強の出来ない子供を教える塾だと？　 勉強の出来ない子供は家が貧乏だ。 そんな塾は儲からない」 父は言った。 「父さん、古いよ」 「なんだと？」 「教育格差が社会問題になれば、政府は勉強の出来ない子供を教える塾に相応の補助金を出すはずだよ」 「よし。 二千万だけ資金を出そう」 卓は父から資金を引き出し、塾を開業した。 卓は会社員だから経営には参加しない。 塾長に教師を辞めた山田、そして、麻衣子が会社を辞めて、塾の事務長になった。 麻衣子は経理のエキスパートだった。 「ホントは和田さんにうちの塾の経営陣に参加して欲しかったんです。 というか、教師になって欲しかった」 卓は言った。 居酒屋に卓、要一、麻衣子、晴美が和田を呼んだ。 「駄目駄目、僕は教師も経営者もむかないの。 会社員かっこヒラが天職なの」 和田は言って笑った。 なんにせよ、塾は開校し、結構人気らしい。 「山田先生も卓も、和田さんには感謝してるんです」 麻衣子が言った。 「卓？」 「ええ。私たち、結婚することにしました」 麻衣子が指輪を見せた。 「それはよかったね」 「僕らはまだですが」 要一が言った。 要一の横には笑顔の晴美がいた。 「三島君、参考のために聞きたいんだけど、どんなプロポーズでこんな美女たちのハートを射止めたんだい？」 「参考のため？」 「いや、僕は独身だよ。 まだ五十代だし。 チャンスがあればね、結婚したいと思っているんだ」 和田は言った。 冗談だとわかっているから、皆、笑った。 「卓は、高級レストランで食事のあと、レインボーブリッヂの見えるところで。 映画みたいに跪いて、指輪を渡されました」 麻衣子が言った。 「実はこれ、山田先生のアドバイスです」 卓が言った。 「和田さん、山田先生が転職の相談した時に、友達の私のアドバイスを聞けって言ったでしょう。 私も山田先生に相談したんです」 「そうなんだ」 「だから、麻衣子さんと結婚出来たのも、和田さんのおかげなんですよ」 「校長、今日、講師のバイトの面接があります」 秘書が言った。 「どんな人たちですか」 要一が答えた。 「今回は一人です。 Ｘ大学経済学部の学生です」 「じゃ、ここに通して」

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