ホームドラマ

作・たぬべえ

４

お馬さんごっこ

あれは一月前だ。 純也は天ぷらを食べにマリのマンションに行った。 食事の時に逆プロポーズのようなことを言われ、食事のあと、 「試しに私のお尻の下に敷かれてみる？」 と言われた。 そして、床に寝た純也の顔の上に下着姿のマリが座った。 尻の穴で鼻をふさがれて苦しかった。 マリが体重を掛けていないのがわかり、純也への気遣いを感じた。 そして、純也の口元がマリの陰部に触れた。 「ちょっと恥ずかしいね」 マリが言った。 だが結局そのあとも、セックスすることもなく純也は帰宅した。 俺は駄目なんだ。 純也は思った。 女にモテたことはない。 交際したこともない。 だから、女性に積極的に出られてもうまく応対が出来ない。 いいんだ。 俺はこのまま一人で生きてゆけば。 独身寮に帰った純也は、久々に「マイクとその家族」のＤＶＤを見た。 ジェフとメイがフットボール部、チアリーダー部の合宿に行くことになった。 なら、その夜は夫婦で楽しもうとマイクとサム。 まだ小さい弟と妹は隣のルーシーの両親が預かってくれることになったが、妹はママの傍にいたいと言い出す。 ルーシーが耳元で囁くと、すぐにルーシーの家に行くと言う。 「パイで釣ったのか」 と聞くジェフに、 「うちに来れば弟か妹が出来るかも」 って言ったのよとルーシー。 ほのかな下ネタに、なんかホッとした気分になる。 そして夜。マイクの家で鞭の音がする。 なんだ？　 素裸で四つ這いのマイクの背中に、乗馬鞭を手にしたサムがまたがっていた。 「今日は家中を走って頂戴よ」 とサムは言い、鞭でマイクのお尻をピシャリ。 「ヒヒーン」といななくマイク。 純也は唖然とする。 こんなの、こんなの、「マイクとその家族」じゃない。 電話が鳴った。 マリからだった。 「今度引っ越したの」 突然だった。 以前よりも遠い場所に引っ越したようだ。 マリも純也との距離を置こうというのか。 「でね、遊びに来ない？」 マリが言った。 距離を置くんじゃないのか。 わけがわからないまま、純也はマリのマンションへ行った。 電車に二十分乗り、着いたのは下町の瀟洒なマンションだった。 広いリビングに部屋も二間あるようだった。 「どう、気に入った？」 マリが言った。 「気に入ったって？」 「ここに二人で住まない？」 マリが言った。 家賃を半分出して欲しい、と言うのがマリの条件だった。結婚を考えるのはそれからでいい。 とりあえず一緒に住まないかという提案だった。 「でも僕は料理とか出来ないし」 純也が言った。 営業部のマリは残業が多い。 開発部は忙しい時は忙しいが、定時に帰れる日も多い。 だから、料理や家事は純也がやらなければならないのだろう。 掃除は出来るが、寮暮らしで料理は苦手だった。 「やだ。純也君。 いくらこの間、私がお尻の下に敷いたからって。 旦那様に家事なんてやらせないわよ。 私、料理得意だから、休みの日にまとめて作って冷凍しておくから。 チンして食べるくらいは出来るよね」 マリが言った。 「そうね。 普通の家と同じで、ゴミ出しとお風呂掃除はやってもらおうかな」 「わかった……。 わかりました。 よろしくお願いします」。 観念する時かもしれない。 と純也は思った。 広いリビングにはダイニングセットしかなかった。 「ねえ、ソファーとか買うの？　 だったら、そのお金は僕が出すよ」 純也が言った。 「ソファーは買いたくない」 マリが言った。 日本人だから。リビングには炬燵を置きたいと言った。それに……。 「ソファーとか置くとリビングが狭くなっちゃう。 なんのために広いリビングの部屋にしたと思ってるの？」 「なんのため？」 「楽しいことをするためよ。 さぁ、服を脱いで」 純也は全裸にされた。 そして床に四つ這いにさせられた。 も、もしかして。 乗馬鞭を手にしたマリが現われた。 「これからはいろいろ楽しいことしようね」。 そう言うとマリは、純也の背中に跨った。 「そら、走れ」。 ピシャリ。 マリが鞭で純也のお尻を叩いた。 純也はマリを乗せて走った。 広いリビングを何周も走った。 マリは楽しそうだった。

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