ホームドラマ

作・たぬべえ

５

家族の絆

「これってもしかして『マイクとその家族』？」 純也は独身寮を出てマリのマンションに引っ越すことにした。 荷物を運び整理していたら、マリが「マイクとその家族」のＤＶＤを見付けた。 「懐かしい。 これ、私が小学校の頃やってたのよね」 そうか。 純也が高校生の時、マリは小学生の三、四年生だったんだ。 純也は感慨深かった。 というか、マリが「マイクとその家族」を知っていたことがなんとなくだが嬉しかった。 やはりマリとは結ばれる運命にあったのだろうか。 ｢これ毎週見てたんだ。 受験で疲れている時に一服の清涼剤だった。 こんな家族になりたいって思ってたんだ｣ 純也は言った。 でも現実は駄目だった。 結婚も出来ず四○歳になった。 犬なんか一生飼えない。 「これからよ、これから。 二人でマイクの家族みたいになりましょうよ」 マリが言った。 「一本見ようか」 マリは適当なＤＶＤを一枚取ると、ビデオデッキに入れた。 懐かしいテーマ曲が流れた。 庭の芝を刈るマイク、パイを焼くサム、バスケットのシュートを決めるジェフ、微笑むメイ、走るアンディ。 憧れのアメリカの中流家庭だ。 なんだなんだなんだ！ いきなりマイクがブリーフ一枚でサムの前に土下座をしていた。 見下ろすサムの顔は呆れ顔だ。 二階のドアの隙間から、そっと見ているジェフとメイ。 「パバ、競馬で百ドル負けたんだって」 「そら土下座もやむなしだな」 「どんなお仕置きされるんだろう」 メイはなんか楽しそうだ。 次のシーン。 マイクがブリーフ一枚のまま床に四つ這いになり、その背中に乗馬服を着て鞭を手にしたサムが乗っている。 隣には、ブリーフ一枚で四つ這いのジェフ、背中にはメイが。 「なんで僕まで、馬になるわけ」 「一組じゃ競馬にならないからよ」 メイは言い、乗馬鞭でジェフのお尻をピシャリと叩いた。 こ、こんなの「マイクとその家族」じゃない、と言おうとした時、 「私、この回が一番好きだった」とマリが言った。 えっ？　 どういうこと。 マリの見ていた「マイクとその家族」はこの奇妙な変態家族なのか！ 「男って、彼女が前の男の話するのって嫌だよね」 マリが言った。 普通はそうかもしれないが、マリが話したいと言うなら、聞きたいと思った。 「前の彼にね、『マイクとその家族』の話をしたら、そんなの知らないって言われた」 そんなのは純也はいつも友達から言われていた。 「でね、私、前の彼にこの場面の話をしたの。 家族でお馬さんごっこのシーンの」 だから、こんなシーンは俺の知っている「マイクとその家族」じゃないんだ。 純也は叫びたかった。 「そしたら、彼に言われたの。 『お前は変態か』って」 マリの目からは薄っすら涙が流れていた。 テレビの画面では、サムとメイに鞭でお尻を叩かれながら、マイクとジェフが「ヒヒーン」といなないていた。 「乗って」 純也はマリに言った。 マリは純也の背中に跨った。 「ヒヒーン」 純也は思いっきりいなないた。

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