めぐりん

作・たぬべえ

中里亮輔は中小企業の庶務課の課長だ。 40歳で独身。 地味な人生だ、と思っていた。 ある日、亮輔は高校の同窓会に行った。 「お前、課長なの？　俺まだ係長だよ」 「俺なんかヒラだよ」 「俺は課長補佐だよ。 補佐になったのは10年前だけどな、 補佐が取れずに10年だよ」 「いや、お前ら、ほら大企業だからさ。 俺は課長ったって部下、５人だから」 「上場しているかしないかの差で、うちなんかお前のところと変わらないよ」 「俺なんか、肩書き管理職で部下なんかいないよ」 「うちなんか管理職廃止でさ、俺もあと一歩で課長だったのにヒラに逆戻りで」 「案外、俺らの年代は出世出来ないんだよ。 その中で課長は凄いよ」 「でもまぁ、この先の出世はないさ」 「何言ってるんだよ。 50歳で部長、60歳で役員だよ」 「いや、うちは同族会社だから。 社長の家族、親戚でないと役員にはなれないよ」 「いや、お前の会社の規模でそれはないよ。 今もいないのか、社長一族以外の役員？」 そういや、二人くらいだが、一族以外の役員もいるな。 いや、あれは銀行と監督官庁の天下りじゃないか。 「それにお前、独身だろう。 羨ましいよ」 「いや、一人寂しく暮らしてるんだよ」 「うちなんか子供二人の教育費でたいへんだよ」 「うちは一人だけど、たいへんだよ」 「俺なんかこずかい月2万円だよ。 昼飯でなくなっちまう」 「うちの会社なんか社食あるから。 こずかい月3000円だぜ。 子供かよ」 「うちなんて嫌煙ブームで強制禁煙させられたよ」 確かに、家族に金は掛からない。 とは言え、日々の寂しさはこれからどんどん増すだろう。 20年後は孤独死かもしれないな。 独身だから。 亮輔も性欲があるので、たまに風俗へ行く。 ある日、めぐりんという22歳の女の子を指名した。 「あのさ、私、親父の汚いチンコ触りたくないんだけれど」 めぐりんは言った。 「どういうこと？」 「だから、触りたくないって言ってるの」 「でも、15000円も払ったんだし」 「金払えば、チンコ触ってもらえると思わないでよね」 「じゃ、どうするんですか？」 「時間まではいてあげるから、勝手にオナニーしなさいよ」 「勝手にオナニーですか」 あー、情けない。 金払って勝手にオナニーって。 めぐりんは携帯をいじりはじめた。 「あのー」 「何？」 「せめてオナニーするところ見てくれませんか」 「お前、変態かよ。 年下の女の子にオナニーするところ見て欲しいのかよ」 「いや、そういうわけでは」 「どういうわけだよ。 いま、オナニー見てくれって言ったろう」 「言いました」 「見て欲しければ、素っ裸になって土下座して頼め。 そうしたら見てやるよ」 「いや、土下座はいくらなんでも」 「変態のオナニー見てやろうって言うのだよ。 土下座くらいしろよ」 亮輔は涙が出て来た。 仕事して仕事して。 会社と家の往復で、やっと貯めた金を握り締めて来た風俗で、なんでこんな扱いを受けなきゃなんないんだ。 人生はじめての土下座だ。 初対面の20歳近く若い女の前に、パンツ一丁で土下座した。 両手をついて頭を下げた。 「マジ？　受けるんですけど」 めぐりんはゲラゲラ笑った。 「泣いて土下座して、オナニー見てくださいって、人生終わってねえ？」 確かに。 人生終わっているよ。 こんな亮輔のどこが羨ましいんだ。 唇をかみながら、しかし、何故か亮輔は勃起した。 「おじさん、やっぱドＭだね」 「ドＭ？」 「なんか見た時、そう思ったんだ。 だから言葉責めしてみたんだけれど、よかった？」 「えっ……」 「じゃ、チンコしごいてあげるね」 めぐりんはビニールの手袋をした。 「そんなお金もらって、何もしないなんて、ことはしないよ」 めぐりんは言った。 「今日は言葉責めオプションサービスしとくね。 次からは、うち、Ｍコースもあるから。 あと5000円で、うんといじめて気持ちよくしてあげるから。 また、めぐりんを指名してね」 「は、はい」 亮輔は翌月もめぐりんを指名した。 さんざん罵倒されて、土下座の頭を靴のまま踏まれた。 最後は足でチンコを踏まれ射精した。 5000円余分の出費は痛かったが、事務的にビニール手袋をしてチンコをしごかれるより、罵倒でも心のこもった声で逝かされるのが快感だった。 「変態親父、また来たのかよ」 めぐりんは罵倒しながら、最高の笑顔で亮輔をむかえた。 亮輔はプレイルームの床に土下座して、床に頭をこすりつけた。 もう何回、めぐりんに土下座したのか。 何回しても土下座の度ごとに亮輔は勃起していた。

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