ハーレム・ナイト

作・たぬべえ

渡部正人は宝くじで200万円当たった。 中途半端だ。 大金には違いないが、マンション買おうったって、買えない。 車がせいぜいだ。 ささやかな贅沢をしていたらすぐになくなる。 老後のために貯金でもしとこうか。 それもなんかつまらん。 明日、心臓麻痺で死んだら、無念が残る。 そこで。200万の２がキーだ。 100万は貯金し、100万をパーッと使うことにした。 高級ステーキを食い、欲しかった漫画を全巻大人買いした。 1万ちょっと。 そんなんで満足か！　 ソープでも行くか。 なんか空しいしなぁ。 雑誌を見ていたら、「ＳＭ」という言葉が目に飛び込んだ。 うん。 100万あれば、一晩だけでも、奴隷女を侍らせて遊べる？ しかし、そんなのはどうすれば出来るんだ？ 漠然と時が過ぎた。 一月過ぎた時、 「奴隷女を大勢侍らせてＳＭな一夜を過ごしたい。 金はある」 とネットに書き込んでみた。 誰も返事はないと思っていたら。 「ホントに金はあるの？」と返信。 相手の名前は、 「マゾ栗三年」。 あーあ、どうせ悪戯か。 しかし、他に誰も返信をくれる奴もいなかったし。 「100万」と返信した。 騙されて盗られるかもしれないが、それならそれでもいい。 「よし。あとは任せろ」 マゾ栗は返信し、 「金は振り込め」 と口座番号を書いて寄越した。 マジかよ。100万振り込んで逃げるんじゃないだろうな。 逃げられても、警察には行かれまい。 「奴隷女を侍らせるために100万盗られた」 と言ったら呆れられるだけだ。 警察には呆れられるが、友達に話したら笑い話にはなる。 それならそれでいいか。 どうせくじで当たった泡銭だ。 100万捨てたと思って振り込んだ。 その日の夜、参加する女性のリスト7人が写真付で送られてきた。 凄い美人はいないし、どれも30代〜40代のようだ。 うん。そのほうがリアリティある。 「○月○日の夜９時〜翌朝6時、××にて」 ××はわりと有名なＳＭバーだ。 磔や吊の道具もある。 １日で100万は高いけれど、7人の女を奴隷に出来るんだ。 やらない手はない。 浮かれ浮かれの数日を過ごした。 ところが前日にマゾ栗からメールがあり、 どうしても会って話がしたい。 と言う。 何があったんだ。 ××の近くの喫茶店でマゾ栗と会った。 すぐわかった。 小柄で、栗みたいな顔していた。 ほら、「ちびまるこちゃん」の永沢君みたいな。 で、しかも茶色のジャケット着ている。 マゾ栗が頭を下げて封筒を差し出した。 「急に頼んでいた女の子が５人、駄目になったと言って来た」 「どういうことだよ」 親が死んだとか、夫バレしたとか、もっともらしい理由で５人来られない。 ２人ハーレムに100万は申し訳ないからと、金も返して来たが、 「××の借り賃で20万払った」 封筒には80万あった。 「20万は分割で返すから、勘弁してくれ」 律儀な奴だな。 逃げても、ネットだけの繋がりで、ばっくれて終わりなのに。 「よし。わかった。 金は返さなくていいよ。 ただ、俺も20万捨てるのも悔しいから」 正人は封筒をマゾ栗に渡した。 「その２人は金を渡せば来るだろう。それに、あんたはそうとう顔広いんだろう」 マゾ栗はうなずいた。 「じゃ、その金で、あんた、あと何人か、男でも女でもいいよ。 集めてくれ。 皆でＳＭパーティやろうぜ、せつかく××押さえてあるだろう」 「あんた、いい奴だな」 マゾ栗が言った。 お前のほうがいい奴だよ。正人は思った。 ＳＭという性癖だが、人間としてはかなりまともな部類だぜ。 多分、あんな栗みたいな顔がコンプレックスになっているんだろう。 翌日、正人は８時半には××に行った。 黒ブリーフ一枚でマゾ栗がいた。 「俺のＳＮＳで呼び掛けたんだ。 20人も集まった。 女１３人男７人」 「なかなかやるなぁ」 「この世界では、ちょっとは信用あるんだ。 男からは一人２万会費をとった。 そのほうが信用になる」 「なるほどな」 無料より高いものはないものな。 「いいよ。その金はお前にやるよ。手間も掛けたし」 「いや……。ＳＭパーティなんだけれどね。 Ｍ女は最初の２人だけで、今日来る１３人は、Ｓ女なんだ」 「なんだって！」 ビシッ！ 鞭の音が響いた。 長身の美女が現われた。 「お前も早く、裸になって、こっちにおいで」 美女が言った。 マゾ栗が申し訳なさそうな目を向けたが、まぁ、それはそれで面白いよ。 いいんじゃないか。 正人は思った。

back to 「他力本願」目次

back to MAIN MENU(Nihongo)

back to MAIN MENU(English)