笑われ芸人

作・たぬべえ

「えー、お笑いタレントなんだ」 「テレビとかで売れてるわけじゃないけれど。 舞台は月五、六回は出てるよね」 「ねえねえ、芸能人とかと会った？」 「Ｉとか、Ｋとかとは同じ舞台にも出たよ」 「へー、スゴイ。 ねえねえ、なんか一発芸やって」 「一発芸？　あんまり得意じゃないんだけど。 じゃ、物真似やります」 「わーっ」 「聖徳太子の物真似。 こんばんは、聖徳太子です」 「何それ？」 「だから、あんまり得意じゃないって言ったろう」 「まぁ、いいわ。 でも頑張って。応援している」 「ありがとう」 「佐藤君、ちょっと」 「なんですか、先生」 「お前さ、何年やってる？」 「えーと、養成所出て２年です」 「２年やっててさ、お笑いがぜんぜんわかってねえよな」 「えっ？」 「お前のはさ、芸じゃねえんだよ。 お笑い芸人ってのはさ、芸で客を笑わせてナンボだろう。 お前のはさ、笑わせてるんじゃない。 笑われてるんだよ」 「それじゃ、いけないんですか。 Ｄさんだって、Ｅさんだって、笑われているだけに思えますけれど」 「笑われているように見せている芸なんだよ。 お前はホントに笑われてるだけなの」 「でも」 「お前、向かないよ。 明日から来なくていいから」 「気にすんなよ。 あの放送作家、あーやって若手に小言言ってストレス発散してるだけなんだから」 「でも先輩、笑われちゃいけないんすか。 最近、俺、舞台出るの楽しいんですよ。 今まで、ウディ・アレンとかに憧れて、小難しい漫談やってて受けなかったのが、ここに来て、おバカな一発芸やって、結構受けてるんです。 お客さん、笑ってくれて、俺、お笑いやっててよかったなって。 それを池田先生に全否定されたみたいな」 「だから、池田の言うことなんか気にするな。 でもさ、お前、なんでウディ・アレンから、パン一で蜜柑丸呑みなんて変な一発芸に変えたんだよ」 「それは……」 「おい、佐藤、お前、バイト、クビになったんだって」 「ええ。 ライブが急に入って、シフト変わって欲しいって店長に言ったら、明日から来なくていいって」 「バイト辞めて、生活大丈夫なのか？」 「いま別のバイト探してます」 「お前、ちょっと割りのいいバイトあるんだけど、やらない？」 「じゃ、服脱いで」 「はい」 「何やってんの、パンツも脱ぐの」 「パンツも？　お客様って女性ですよね。 女性の前でまる出しですか」 「お前はバカか。 ここではお前は男じゃないんだよ。 奴隷なんだ。 素裸で奥様方の前で、いろんな芸やって楽しませて、それでお金をもらうんだから。 大丈夫かよ。 なんか芸、出来るのか」 「漫談とか」 「バカか、お前は。奴隷が漫談やってどうするんだよ。 奴隷の芸っていうのがあるんだよ。 私は犬でございますって言って、チンチンとかお手とかな。 手を使わずにモノ食うとか。 とにかくな、お客様を喜ばせるんだ。 笑われてナンボだぞ。 頑張れよ。 あとな、お客様には絶対敬語、どんなことされても、言われても決して逆らわない、 わかったな」 「はい」 「恥ずかしいなぁ。 綺麗な女の人たちにチンコ見られて」 「何そんなところでつっ立ってるのよ。 こっちに来なさい」 「は、はい」 「ほら、お前は奴隷なんだから。 私たちの足元に土下座しなさい」 「土下座ですか。 あー、素っ裸で土下座かよ。 人間終わったな」（土下座する） 「頭が高い。もっと床に頭つけて」 「はい」 「あんた素人ね。 このバイトはじめて？」 「はい」 「ははは。面白いわ。 普通の男性がプライド捨てる瞬間を見るのって。 ほら、後から見て御覧なさいよ。 お尻の穴や、金玉袋の裏がまる見えよ。 みじめな姿ね」 「…」 「なんか芸でもやりなさいよ」 「はい。 ワンワンワン」 「ははは。面白いわ。 ワンワンですって。 はーっ、はっはっ。 ご祝儀上げるわよ」 この時俺はわかった。 笑われてもいいんだ、笑われても、受けた者が勝ちだと。

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