従順な彼

作・たぬべえ

青山巌と杉山孝之とは高校の同級生だった。 高校時代、いじめにあっていた孝之を巌が助けた。 以来、巌は孝之の兄貴分だった。 二人はともに東京のＬ大に合格した。 孝之は偏差値の高いＧ大にも合格していたのだが、 「俺と一緒の大学に行こうぜ、なっ」 という巌の強い言葉に負けた。 大学では、孝之は巌の代わりに出席カードを出したり、使い走りをやらされたりしていた。 巌に彼女が出来た。 Ｓ女子大の梅島真由だ。 「付き合ってもいいけれど、私、前の彼氏がＭ男でさ」 「なんだ、それ？」 「Ｍ男の彼氏って便利だったんだよね。 家の掃除とか、洗濯とかもやってくれてさ。 巌君、私のマンションの掃除とか、してくれないよね」 「馬鹿野郎、そんなこと出来るかよ。 いや、待て。 俺の友達で、掃除とか洗濯が得意な奴がいるんだ。 そいつにやらせよう」 「えーっ、巌君の友達に私のパンツとか洗ってもらうの？　 ちょっと恥ずかしいなぁ」 「しょうがないな。 パンツだけは俺が洗ってやるよ」 まぁ、今はそう言って、全部、孝之にやらせればいいや。 巌は思った。 掃除はなんとかやった。 まぁ、真由も女子だし。 そんなに汚くは暮らしていなかった。 ワンルームだし。 ゴミを捨てて、掃除機掛けて終わりだ。 洗濯も洗濯機まわせば終わりだけれど、なんで巌の彼女が住んでいるマンションの掃除や洗濯をしなきゃいけないんだ。 「頼むよ。この通りだ」 巌が、あの巌が土下座して頼んだ。 マジか。 何度も助けてもらった巌に土下座されたら、やらないわけにはいかない。 でも将来どうするんだ。 巌と真由が結婚したら。 孝之は青山家の召使か。 洗濯を終えたら、 「これは手洗いでお願いね、巌君」 って書いてある籠があった。 真由の下着が入っていた。 巌に電話した。 「それも頼む。 あっ、真由には俺が洗ったことにしといてくれ」 「わかった」 真由は丸顔で超カワイイ。 パンツを洗濯しながら、孝之は勃起した。 魔が刺した。 ズボンとパンツを脱いで、少しチンコにふれたら、精液が溢れ出た。 真由のパンツに思いっきり掛かった。 どうしよう。 無理にことを頼んだ巌が悪いんだ。 巌に電話した。 「お前、マジかよ」 巌は怒ってはいなかった。 呆れていたみたいだ。 「俺も男だから、お前の気持ちはわかるよ。 お前に頼んだ、俺も悪い。 新しいパンツ買って二人で真由に謝ろう。 俺、真由とは本気だから。 嘘でごまかしたくないんだ」 えーっ！ 自分が洗うって真由に言って、それを孝之に押し付けたのは、巌だろう。 しかも、それは彼女のパンツの洗濯だ。 夜、カラオケに真由と巌と孝之で行った。 巌が真由の前に土下座した。 「信じらんないんですけど」 真由はかなり怒っていた。 「お前も土下座しろ」 えーっ！　 確かに真由のパンツに精子をかけたのは孝之だが、なんで土下座なんだ。 だが、巌に言われては仕方ない。 巌の横に正座して頭を下げた。 「お待たせ」 カラオケにもう一人女が入って来た。 「えっ、何、修羅場？」 「ごめん。ちょっとあって。 巌君にそれから、孝之君だっけ。 彼女は私の高校の友達、あんたたちと同じＬ大に行っている、 一年後輩になるんじゃないかな、玉城奈美」 「玉城です」 「青山です」 「杉山です」 「あははは、はじめての挨拶、土下座でされたの、はじめてです」 孝之は土下座もはじめてだった。 「ちょっといろいろあってさ。 巌君はもうソファーに座っていいよ」 巌が真由と奈美の間に座った。 「まぁ、結論から言えば許すよ。 あんたたち、やりたくてたまんない男子に下着の洗濯頼んだの私だから」 「えっ、何何、どうしたわけ」 奈美が聞いた。 「こいつが真由のパンツ洗濯してたら、チンコから精子出した」 うわーっ、奈美の軽蔑の視線が刺さる。 っていうか、なんで第三者の女が来たんだよ。 「まぁ、お仕置きで許してあげる。 あっ、奈美はなんで来たかと言うと、その話はお仕置きのあとね」 真由が言った。　　　　　　　　　　 巌と真由は別れた。 そらそうだろう。 ちょいＳ女で、家の掃除や洗濯を彼氏にやらせる真由と、どっちかと言うと、わがままでＳ男な巌があうわけがない。 あの件、つまり孝之が巌に頼まれて真由の下着を洗濯している時に、思わず精子をもらしてしまい、真由に土下座で謝らせられて。 孝之にとってははじめての土下座で、しかもその場にはＬ大の後輩の玉城奈美もいた。 そして、その日、孝之は真由からお仕置きだと言われ、裸にされて、孝之が汚した真由のパンツを履くように言われた。 「ちょっと、先っぽ見えてるんですけれど」 奈美が言った。 女性のパンツは小さく、孝之のチンコの先っぽが飛び出していた。 真由と巌は爆笑だった。 「あっ、先輩もこの授業とってたんだ」 100人くらい受講している社会学の授業で、奈美とばったり会った。 女性のパンツ履いて、チンポの先っぽ見られた女とはあまり一緒にいたくなかったけれど。 「隣座っていいですか」 「ど、どうぞ」 駄目とは言えない。 授業のあと。 「お昼、行きません？」 学生食堂で昼食を食べた。 奈美は英文科の一年、巌と孝之は経済学部で学部が違うから一緒の授業は教養科目だけだ。 社会学の他に、自然科学史と民俗学と三つも同じ授業をとっていた。 週三回、孝之は真由と隣で授業を受けた。 巌も同じ授業をとっていたが、巌は出席カードを孝之に頼み出席していなかった。 「私あと、東洋史とってるんです」 「俺、去年、東洋史とっていたから、ノート貸してあげるよ」 「わーっ、ありがとう」 メチャクチャ好感なんだが。 最初に会った日に、土下座で挨拶、そのあと女の子のパンツ履かされて、チンコまで見られているんだ。 孝之は奈美と話をするだけで、かなり恥ずかしかった。 民俗学は５時限目で。 「先輩、今日、よかったら、飲みに行きませんか」 たまたまバイト代が入った日だった。 ちょっと高めの居酒屋で飲んだ。 「あの日って、いったい何があったんですか」 やっぱり。 飲みに行ったら、核心に迫る質問が来た。 「ちょ、ちょっと罰ゲームだよ」 一応ごまかす。 「あの時、青山先輩が、杉山先輩が真由のパンツ洗濯して、って言っていましたよね。 どうして、杉山先輩が真由のパンツ洗濯してたんですか？」 「そ、それは……」 「あと、杉山先輩、なんで青山先輩のパシリしてるんですか」 「そ、それは。高校時代に、あいつにはいろいろ世話になっていたんだ」 「でももう大学来て二年でしょう。そろそろ恩は返したんじゃないですか」 「いろいろあったんだよ」 「杉山先輩、青山先輩に命令されて、真由のマンションの掃除や洗濯やらされていたんでしょう」 「うん」 もうこうなったら仕方がない。 奈美に嫌われてもいい。 巌には逆らえないんだよ。 「そこまですることないと思うよ。 もう。 止めなよ。 杉山先輩、いや、孝之君って呼んでいい？」 「うん」 「孝之君、自分の人生歩きなよ。もう、青山先輩とは決別して」 「うん」 「どうせ奴隷になるんなら、男の奴隷じゃつまんないでしょう」 奈美が言った。 「えっ？」 「あんな恥ずかしい格好してさ、孝之、Ｍに目覚めちゃったんじゃない？」 いつの間にか、呼び捨てになっていた。 次の日から週末、孝之は奈美のマンションに行って、掃除と洗濯をするようになった。 もちろん、掃除と洗濯の後は、二人でまったり過ごした。 孝之は巌と決別し、奈美と付き合うことになった。 そして、時々は、 「ねえ、孝之、最初に会った日、覚えている？」 「うん」 「女の子の下着つけて土下座したよね」 「えっ、そんなことあった？」 バシッ。 奈美のビンタが飛んだ。 孝之は時々、奈美の下着をつけて、土下座させられ、そのあとは、足舐めやお尻叩き、お馬さんごっこ、楽しいプレイが待っていた。 一年経った。 「その後、杉山君とどうなの」 真由が聞いた。 「やっぱＭ男の彼氏はいいわ」 奈美が言った。 午後のカフェテラス。 真由と奈美が久々に会った。 「掃除、洗濯、全部やってくれるし。 敬われている感が半端ないのがいいよ」 二年前、真由は康人と付き合っていた。 康人はマゾヒストで、真由のエプロン奴隷だった。 ところが合コンで巌と知り合い、強引に口説かれた。 ぐいぐい押してくる男も悪くないなと思い、真由は巌と付き合うことにし、康人に別れ話を切り出した。 案の定、康人は泣いて 「別れないでくれ」と言った。 康人は土下座して頼んだが、普段から土下座をしている康人の土下座はなんの意味もなかった。 真由は高校時代の親友の奈美を呼んだ。 「奴隷を一人引き受けない？」 「何それ？」 「彼氏なんだけれどね。 うん。 最初は彼氏だったけれど、エプロン奴隷として使っていたら、ただの奴隷になっちゃって。 うざいなと思ってたら、ちょっといい男に口説かれてさ」 「で、真由の元彼を私に引き受けろと？」 「お願い」 真由に拝まれた。 「しょうがないなぁ」 奈美は康人と付き合うことにした。 しかし、康人は少しスボラな性格で、角な座敷を丸く掃くようなところがあった。 しかも、掃除のご褒美をねだってくる。 「オナニーを見てください」 と言われた時は、かなりキモイと思った。 「あんたね、なんで真由に捨てられたのか、わかってる？」 「わかりません」 「掃除が下手なの。 というか、あんたなんかが奴隷でも、気持ちがいいこと何もない」 「はぁ」 「はぁじゃないの。 あんたがオナニーして気持ちよくなるために私はいるんじゃないの。 奴隷の身分をわきまえなさいよ」 「でも、僕はマゾな彼氏で」 「あんたを彼氏にした覚えはない。 奴隷は奴隷らしくしなさいよ。 あんたはね、気配りが足りないの。 どっかに奉公でも行って修業し直していらっしゃい」 奈美と康人は一週間で別れた。 「というわけだから」 「わけだからって？」 「他にいないの？　エプロン奴隷」 「わかったわよ。 いま、うちの掃除してくれている、彼氏の友達なんだけれど。 紹介する」 「えっ？　何それ？　彼氏の友達が真由の家の掃除とかしてるの？」 「まぁ、彼氏の奴隷なんだけれどさ。 一軒も二軒も同じだから。紹介するよ」 それが二年前だ。 紹介するよと言われて行ったカラオケボックスで。 孝之と巌は真由に土下座をしていた。 そのうち、巌はソファに座り、孝之は真由のパンツを履かされて、三人に土下座していた。 あー、世の中には、本物のマゾっているんだ、と奈美は思った。 孝之にくらべたら康人は偽マゾだわ。 キャンパスで孝之に会った。 で、話をしてみたら。 普通だった。 というか、優しくて。 いろんな気配りしてくれる。 だから、奈美は言った。 「孝之君、自分の人生歩きなよ。 もう、青山先輩とは決別して。 どうせ奴隷になるんなら、男の奴隷じゃつまんないでしょう」 「男の奴隷じゃつまんないって、どういうこと？」 「女の奴隷だったら、いろいろ楽しいことがあるよ」 「えっ？」 「私の奴隷になりなさいよ」 「奈美さんの奴隷に？」 「普段は恋人。 で、私のマンションに時々来て、奴隷になるの。どう？」 孝之は奈美の彼氏奴隷になった。 エプロン奴隷として、奈美の部屋の掃除と洗濯はしてくれる。 あとは恋人として過ごした。 普通にデートしたり。 大学で一緒の授業を受けて。 孝之は英語も得意だったから、奈美の英文科の課題も手伝ってくれた。 ＳＭプレイなんかしないし、孝之のオナニーを見ることもない。 お互いに気が乗れば普通にセックスはするし、でも、たまに奈美のパンツを孝之に履かせて、床に跪かせる。 そのくらいはやる。 そうすると孝之はチンコがフル勃起するんだ。 やっぱり、ちょっと責めてあげたほうが、楽しいセックスが出来る。 「杉山君を奈美に紹介するんじゃなかった」 突然、真由が言った。 「ねえ、杉山君に飽きたら、私に譲って」 「何それ、いくらなんでも、じゃない？」 「だって、奈美、奴隷と結婚するわけじゃないでしょう」 「悪いけれど、孝之は奴隷じゃないよ。彼氏だから」 「そうなんだ」 「ふふふ」 「何笑っているのよ」 彼氏が自分のパンツを履いて土下座している姿を思い出したら、奈美はなんかおかしかった。

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