A Love Story

   #2 Her Guard Dog
Aug. 2012


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海辺のケン
　いつ頃だろうか。自分が他の女の子たちと違うことに気づいたのは。
男の子に夢中になる気持ちというものが、どうにも理解できないのだ。
もちろん、私にだって美醜の区別ぐらいはつく。
イケメンを見れば、やっぱり綺麗だと思う。
でもその気持ちと、他の女の子が抱く恋愛感情というものとは、
どうやら別物のようなのだ。

　といっても、いい年をして処女、というわけではない。
好奇心に駆られて、試してみた。
しかし、それは、嫌悪感しかもたらさなかった。
行為の前も、最中も、終わってからも。
思い出したくもない。

　男の子に夢中になれない私だけど、
なぜか、
男の子たちに好かれてしまう。
おっと、「なぜか」なんて、一応言ってみたが、
持てる理由ははっきりしている。
私がグッド・ルッキング・ガールだからだ。
こういう言い方は自分でもイヤらしいと思うが、
事実だから仕方がない。
口にこそ出さないけれど、自分でも綺麗だと思う。
そして、より一層綺麗になるよう、磨きをかけることを怠らない。
顔にもボディーにも。
男の子の気持ちを惹こうなんて気持ちは、さらさらない。
ただ、自分の美しさを楽しみたいだけなのだ。

　夏のビーチは、女の発表会だ。
体の曲線を強調するスイムスーツを着て、渚を歩く。
「見て！見て！私、綺麗でしょ！」
女の生涯で、心からそんな風に思える季節は限られている。…に違いない。
その短い季節を、思いっきり謳歌しなければ、ウソだと思う。

　私が渚を歩いたり、
浜辺に寝そべったりしていると、
あちこちから視線が飛んでくる。
男からも、女からも。
賞賛と、少しばかりの羨望、そして、嫉妬。
熱い視線は、心を暖めてくれる。
男からのものでも、女からのものでも。
　
　ただ、困るのは、
私が一人だとみると、
男たちが図々しく声をかけてくることだ。
無視すると逆恨みを買いかねない。
といって、かまってやる気もおこらない。
ああ、ウザい。

　だから私は、ビーチにケンを誘う。
ケンは便利な男だ。
連れて歩いても恥ずかしくないレベルのイケメンで、
女の子に滅茶モテだが、
私にぞっこん。
まあ、ハッキリ言ってそんな男は
私の周りに掃いて捨てるほどいるけど、
ケンが他の男の子と違うのは、
私の肉体を求めてこないこと。
知り合って一年になるが、
キスはもちろん、
手を握ろうともしない。
ただひたすら私に従順で、
どんなわがままも文句ひとつ言わずに聞いてくれる。
おまけに、大抵のことはできる。
まるで、お姫様に仕える、有能な下僕のようだ。

　海にケンを連れていくのは、
彼が側にいると、男どもが寄ってこないからだ。
その他にも、いろいろと役に立って、本当に便利だ。

　でも、周りからケンと恋人同士のように見られるのも、嫌だ。
だって、恋人同士ということは、
当然、肉体関係があるだろう、
なんて思われかねない。
考えすぎかもしれないが、
そんな風に見られる、かもしれないってこと自体、
私のプライドを甚だしく傷つける。

　私の気持ちを察したのだろうか。
海辺でケンは、およそ恋人同士には見えない姿態をとる。
私も興にのって、
首輪をつけ、
鎖でつないだりする。
　私の上半身には決して触れようとしないケンだが、
こうした姿態をとった時、
ときおり、
私の脚に、甘えるように頬を擦り付けたり、
足の甲に唇を押し当てたりすることはある。
私も、それぐらいは大目にみてやる。

　逞しい肉体に、美しい顔立ちを具えたケン。
男の品評会に出したいような、
便利でかわいい、
自慢の番犬。


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