ARTEMIS ＆ Her Dog

↑クリックすると大画像！

水仙奇譚
	昔々ある処に ナルキッソスという名の それはそれは美しい青年がいました。 しかし彼は 自分の美しさに気づいてはいませんでした。 その頃 ガラスや銅合金の鏡は存在せず 金属を磨いただけの劣悪な性能の姿見しか ありませんでしたから。 ある日ナルキッソスは ふとしたはずみで 深い森の中に入っていきました。 森の奥には涼やかな泉がありました。 泉は 木々にうっそうと囲まれていました。 そのため 風が吹き込まず 水面は平らに澄み渡っていました。 歩き疲れたナルキッソスは 泉の縁に立つ岩の陰に腰を下ろし しばし休憩したあと 水を飲もうと水面に顔を近づけました。 そのとき彼は それまで見たことのないような 美しい人を見ました。 言うまでもなくそれは 水面（みなも）に映った 彼自身の姿でした。 そんなこととは露知らぬナルキッソス。 「ああ、なんて美しいのだろう」 己（おのれ）の姿に激しい恋情を覚え 身じろぎもせずに うっとりと見入るのでした。 （一説によると、ナルキッソスは、実際にはいうほどの美青年ではなかったそうです。ただ、彼の美しさがいかばかりのものであったかはともかく、彼自身の目にはとても美しく映ったらしく、その辺りは感じ方の問題ですから、しようがありませんね） ところで その泉はアルテミスという女の人のものでした。 ちなみに アルテミスのお父さんはゼウス お兄さんはアポロという名前です。 アルテミスはとっても奇麗な女性でしたが どういうわけか 野生動物を射殺すことが大そう好きでした。 その日もアルテミスは狩りを終え 発汗と興奮に火照った体を鎮めようと 泉にやってきました。 ところが その日に限って彼女は ぼんやりしていました。 それというのも 彼女は猪狩りに出かけたのですが お気に入りの愛犬が 巨きな猪の逆襲にあって 殺されてしまったのです。 そんなわけで 落胆していたアルテミスは、 岩陰のナルキッソスに 気づきませんでした。 そして いつものように衣服を脱いで ざぶんとばかりに泉に入りました。 鏡のように静まり返っていた泉の水面は アルテミスの入泉によって乱され 無数のさざなみが生まれました。 さざなみは 岩のたもとのナルキッソスの所にも つたわりました。 それまで 水面（みなも）に映ったじぶんの姿に うっとりと見入っていたナルキッソスは 水面が乱れたため 我に返りました。 彼は 水面の麗姿が乱されたことを惜しむと同時に 一体何が起こったのか確かめようと 岩陰から顔を覗かせました。 その時 ナルキッソスの目に映じたのは 目も眩むばかりに美しい女の人が 全裸で水浴びしている姿でした。 感激屋で しかも多少抜けた処のあるナルキッソスは じぶんの姿に見入っていた時と同じように アルテミスの美しい姿に釘付けとなり 彼女を呆然と見詰めつづけました。 ついさきほどまで 水面に映った己（おの）が姿を 世界一美しいと思った ナルキッソスでしたが アルテミスを見て考えを改めました。 彼女の方が 十倍も美しかったからです。 抜け作のナルキッソスは 全裸の女の人をそんな風に見つめることが 彼女に失礼になるなんてことには てんで気づきませんでした。 泉の静寂を破ったのは 鴉の鳴き声でした。 鴉は アルテミスの手先でした。 かつてアルテミスは 入泉中を出歯亀されたことがありました。 それ以来 泉に入るときには 必ずその鴉に見張らせ 不審者を見つけたらたちどころに知らせるよう 命じていたのです。 鴉の通報で不届き者の侵入を悟った アルテミスは すぐにナルキッソスに気づきました。 そして 出歯亀に対してしたように ナルキッソスを鹿に変え 射殺そうとしました。 けれども ナルキッソスの顔を見て アルテミスは考えを変えました。 ナルキッソスの顔に 好色の表情は浮かんでいませんでした。 また アルテミスが形相を変え 矢をつがえて近づいてきたにもかかわらず ナルキッソスの顔には 恐れの色もありませんでした。 ナルキッソスの顔に浮かんでいたものは 「崇拝」でした。 ただ一途にアルテミスの美を讃え、崇める ナルキッソスの目。 それはアルテミスに その日死んだ愛犬を 思い出させました。 アルテミスは そんなナルキッソスを憐れみ 彼を鹿に変えて射殺す代わりに 犬に変えました。 こうして 美青年のナルキッソスは 犬として アルテミス様に飼われることになりました。 そして 昼も夜も 美しいアルテミス様の ひかり輝くお美脚の許に侍り 末永く 忠実にお仕えしましたとさ。 めでたし　めでたし

●ギャラリー "Once upon a Time" に戻る ●目次（"ＩＮＤＥＸ of GALLERIES"）に戻る ●「女性上位時代」メイン・メニューに戻る